骨や筋肉に多いイメージのあるマグネシウムですが、実は神経や脳にも欠かせない存在です。
とくに脳の中はほとんどが神経細胞でできていて、そのやりとりをスムーズにする“神経伝達物質”の働きに、マグネシウムが関わっているのです。
ストレスや脳疲労、集中力の低下など…
「なんだか最近、脳がうまく働いてない気がする」というときは、マグネシウム不足が関係しているかもしれません。
この記事では、マグネシウムと脳の関係やその効果について、やさしく解説していきます。
マグネシウムと脳との関係

マグネシウムと脳には大きな関係があります。
マグネシウムは体内の「細胞内液」に存在していて、イオンのバランスを整えたり、細胞の中と外の物質の出入りを調整したりと、生命活動に広く関わっています。
特に「補酵素」としての役割が知られており、酵素が関わるおよそ800以上の体内反応をサポートしています。
Currently, enzymatic databases list over 600 enzymes for which Mg2+ serves as cofactor, and an additional 200 in which Mg2+ may act as activator. (訳:現在、酵素データベースには、Mg2+が補因子として機能する酵素が600以上リストされており、さらにMg2+が活性化剤として機能する可能性のある酵素が200以上リストされています。
Magnesium in Man: Implications for Health and Disease | Physiological Reviews
脳内に存在するマグネシウム自体は、全体の約0.1~0.5gとごくわずか。

「そんなに少ないならあまり影響ないんじゃない?」
と思う方もいるかもしれませんが、脳内で分泌される神経伝達物質自体が微量でも、私たちの体に大きな影響を与えます。
神経伝達物質の少しのずれは体にとって大きなずれとなり、そして繊細な神経伝達物質のシグナル伝達などに関わっているのが、マグネシウムというわけなのです。
マグネシウム不足による脳への影響
マグネシウムは、神経伝達物質のやり取りをサポートする重要な役割を担っています。
つまり、脳の働きにとっても、マグネシウムは欠かせない存在なんです。
マグネシウム研究の第一人者であり、“Dr.マグネシウム”とも呼ばれる横⽥邦信医師は、マグネシウムが脳に与える影響について以下のようにお話されています。

マグネシウムが不足すると身体にさまざまな影響がでますが、その中には脳への影響もあります。
マグネシウム不足によって怒りっぽくなったりイライラしたりするだけでなく、うつや気分障害、ADHDなどの発育障害がみられる場合もあります。
関連記事:マグネシウムはADHDの症状緩和に役立つ?効果と摂取方法を徹底解説
他にも下記のような悩みや症状が懸念されます。
- 気分の落ち込み
- イライラ
- 集中力の低下
- 記憶力の低下
- 判断力の低下
- 睡眠不足
- 興奮状態の継続
- 食欲の変動
- ホルモンバランスの乱れ
こうした症状に心当たりがある場合、マグネシウム不足を疑ってみましょう。
マグネシウム不足を改善するには、まず食事を見直すことが大切です。
下記の記事ではマグネシウムが豊富な食品をランキング形式でお伝えしているほか、一般的な食事でどれくらいマグネシウムが不足傾向にあるのか、実際に計算してみました。
ぜひ参考にしてみてください。


マグネシウムの脳への6つの効果

ここからは、マグネシウムが脳に与える代表的な効果を6つに絞ってご紹介します。
- 脳疲労の回復や予防
- ストレスや不安の軽減
- 学習と記憶のサポート
- エネルギー補給
- 睡眠の改善
- 抑うつや不安の緩和
一つずつ順番に見ていきましょう。
脳疲労の回復や予防

脳疲労とは医学的用語ではありませんが、一般用語として使われている言葉です。
知的学習やストレス、睡眠不足、不十分な修復や回復などの影響で脳機能が低下した状態を指します。
脳疲労は最初、集中力や記憶力の低下、注意散漫などを引き起こしますが、ひどくなると寝不足や片頭痛をひきおこし、放置すると慢性化してしまいます。
つまり、脳疲労はひどい寝不足や片頭痛になる前のサインということ。
- 勉強や仕事の後に「頭が働かない」と感じる時がある
- 気持ちをうまく切り替えられない
- 疲れているはずなのに眠れない
- いつも頭の中でぐるぐる考え事をしている
こうした状況に思い当たることがあれば、もしかしたら脳が疲れ気味の可能性があります・・・。
マグネシウムはエネルギー補給やストレスの軽減をサポートし、神経伝達物質の伝達をスムーズにすることで、こうした脳疲労の軽減が期待できるのです。
ストレスや不安の軽減

マグネシウムは、神経の興奮をしずめる役割を担い、ストレスや不安の軽減の効果が期待されています。
具体的には、抑制系の神経伝達物質である「GABA」の働きを助け、過度な緊張や不安感を和らげます。
仕事や人間関係のストレスで気持ちが高ぶっているときにマグネシウムが不足すると、神経が過敏になり、イライラや不安が強まることがあります。
逆に、十分な量を摂取できていれば精神の安定を支え、ストレスに対する耐性を高めることができます。
マグネシウムは日常的に心を落ち着けたい人にとって、欠かせない栄養素だと言えるでしょう。
関連記事:マグネシウム不足でストレスが悪化?心と体を整える現代的栄養戦略
学習と記憶のサポート

マグネシウムは、脳内で学習や記憶を担う神経回路の働きを支える重要な役割を持っています。
特に「シナプス可塑性」と呼ばれる神経細胞同士のつながりの変化に関与し、新しい情報を効率的に吸収しやすくします。
さらに、NMDA受容体という記憶形成に関わる神経受容体のバランスを調整することで、過剰な興奮を防ぎつつ、適切な記憶の定着を促します。
勉強や仕事で集中して学びたいときや、加齢による記憶力低下が気になる方にとって、マグネシウムは脳の働きを支える心強い味方になるでしょう。
エネルギー補給

脳の働きを維持するには、安定したエネルギー供給が欠かせません。
マグネシウムはATP(アデノシン三リン酸)の生成に深く関わり、エネルギーを効率的に作り出すサポートをしています。
ATPは「細胞のエネルギー通貨」と呼ばれ、思考や記憶、集中といった脳の活動を支える燃料源です。
もしマグネシウムが不足すると、ATPの生成が滞り、脳の働きが鈍くなりやすくなります。
その結果、疲労感や集中力の低下につながるのです。
十分なマグネシウムを摂取することで、脳に必要なエネルギーを安定的に供給でき、パフォーマンスの向上につながります。
関連記事:ミトコンドリアとは?人間の体を動かす「エネルギー工場」の神秘
睡眠の改善

睡眠は人にとってなくてはならないものです。
体の修復や回復はもちろんですが、睡眠の重要性の大きな理由は脳にあります。
脳は起床中と睡眠中で働きが異なる特徴があり、起きている間は活発に動いて情報を吸収し、寝ている間はそれらを整理したり、老廃物の排出作業をおこなっているのです。
つまり、睡眠が充分にとれないと、情報は整理されず、老廃物が蓄積していくということになります。
マグネシウムは睡眠と大きな関係があり、近年では不眠症や睡眠の質改善のために取り入れられるようになってきています。
マグネシウムと睡眠についてはこちらでさらに詳しくまとめているので、ぜひご覧ください。

抑うつや不安の緩和

マグネシウムは、気分の安定や抑うつ症状の緩和にも関与しています。
脳内では神経伝達物質のバランスを整える役割を果たし、過剰な興奮を抑えながらセロトニンなどの“幸せホルモン”の働きをサポートします。
マグネシウムが不足すると、神経過敏や気分の落ち込み、慢性的な不安感につながるリスクが高まります。
研究でも、低マグネシウム状態と抑うつ症状との関連が指摘されており、栄養補給によって気分の改善が期待できる場合があります。
心身の安定を保つためにも、日常生活でマグネシウムを意識的に取り入れることが大切です。
関連記事:マグネシウムとうつ病の関係とは?精神疾患予防に期待される効果と正しい摂取方法
マグネシウムが脳に効果的なのは脳関門を通過できるため

マグネシウムは、脳関門を通過することができるミネラルの一つです。
ヒトの体には常に血液がめぐっており、栄養やさまざまな物質が供給されています。
ただし、脳はほかの臓器や部位に比べても生命活動でとても重要な部分。
そのため、脳関門という“門”が存在し、侵入してくる成分をより厳しく取り締り、脳に悪い物が侵入するのを防いでくれているのです。
ミネラルは体にとって必要な栄養素ですが、そんなミネラルでさえ、すべての種類が脳関門を通過できるわけではありません。
特定の、脳にとって必須な栄養素だけが脳関門の許可を得て、脳に入ることができるのです。
そして、そのひとつがマグネシウム。
マグネシウムは脳関門をスムーズに通過することができ、迅速に吸収されていきます。
吸収されたマグネシウムは、
- 神経細胞の興奮などの調整
- 神経伝達物質の放出や受容体の調整
- エネルギーの生産や利用
などサポートすることで、脳へさまざまな効果をもたらすのです。
以下の記事ではマグネシウムと同様に、私たちの体に欠かせない重要なミネラルである亜鉛について解説しているので、こちらもご参考にしてください。
マグネシウムと亜鉛は一緒に摂っていい?飲み合わせの効果と摂取のコツを解説
脳にも効果的なマグネシウムの摂り方

マグネシウムは脳にとても大切だということがわかりましたが、実は現代の日本人は、マグネシウムが不足しがちであることがわかっています。
厚生労働省がおこなった調査によると、一般的に男性で約139mg/日、女性で約93mg/日、マグネシウムが不足しているということがわかりました。
参考:
日本人の食事摂取基準(2025年版)|厚生労働省
令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
現代人の食事と生活習慣では、どうしてもマグネシウムが不足しやすいのが現状なのです。
そこで近年ではマグネシウムのサプリメントやお風呂に入れるエプソムソルトなども登場し、マグネシウム不足の解消を気軽におこなえるようになっています。
食事からマグネシウムを充分に摂取できればベストですが、毎日の食事管理が難しい場合や、多くのストレスなどを感じている場合には、ぜひサプリメントや経皮吸収によるエプソムソルトの入浴なども活用してみてくださいね。
関連記事:
マグネシウムサプリのおすすめはこれ!人気5選&吸収率で選ぶ失敗しないコツ
エプソムソルトの効果とは?知っておきたい効能&正しい使い方を解説
マグネシウムサプリメントの注意点

脳関門を通過しやすいマグネシウムですが、実はひとつ難点があります。
それは脳関門にたどり着くまでの吸収率が低いということ。

マグネシウムは便秘薬としても処方されますが、実はあれ、マグネシウムが細胞に吸収されにくいという特徴を活かしているのです。細胞に吸収されなかったマグネシウムは腸に届いて腸内の水分量を増やすことで、便を柔らかくして一緒に排出されます。
便秘薬ではなくサプリメントとして売られている多くのマグネシウムサプリメントも、副作用として下痢に注意するよう書かれています。
一般的な構造のマグネシウムサプリメントは、吸収されずに多くが排出されてしまうだけでなく、代謝のために肝臓に負担をかけているのです・・・
そのため、サプリメント自体の構造に注意することがとても大切です。
そのひとつが細胞膜と同じ性質を持ったリポソームを取り入れたサプリメント。
マグネシウムの小さな粒子を同じく小さなリポソームでコーティングすることで、細胞とくっつきやすく取り込まれやすいという仕組みです。
参考:Liposomes as Advanced Delivery Systems for Nutraceuticals|PMC
マグネシウムをサプリメントで補いたいと考えている場合には、ぜひサプリメントの構造にも注目してみてください。
以下の記事ではリポソームマグネシウムだけでなく、その他さまざまなマグネシウムの種類と効果について解説しているので、こちらも併せてご覧ください。
【マグネシウムの種類】サプリで見かける10種類の効果と特徴
まとめ
今回は、マグネシウムと脳の関係について詳しくお伝えしました。
マグネシウムは神経の伝達や脳内のバランスを整える働きがあるため、脳疲労や集中力の低下、ストレスが気になるときにも心強いミネラルです。
「最近なんだかボーっとする…」「気分の浮き沈みが激しい…」
そんなときは、マグネシウムが不足しているサインかもしれません。
まずは日々の食事で意識して取り入れることが大切ですが、難しいときはサプリメントや経皮吸収なども上手に活用しながら、自分に合った方法でマグネシウムを補っていきましょう。
参考文献
- The Role of Magnesium in Neurological DisordersAnna E. Kirkland,1 Gabrielle L. Sarlo,1 and Kathleen F. Holton2,3,*
- Magnesium and the Brain: A Focus on Neuroinflammation and NeurodegenerationJeanette A. M. Maier,1,* Laura Locatelli,1 Giorgia Fedele,1 Alessandra Cazzaniga,1 and André Mazur2
- Dietary magnesium intake is related to larger brain volumes and lower white matter lesions with notable sex differencesKhawlah Alateeq 1 2, Erin I Walsh 3 4, Nicolas Cherbuin 3
- Magnesium transport across the blood-brain barriers Mounir N. Ghabriel and Robert Vink.