ピアノ伴奏者や料理人、美容師など手指を酷使する職業の人のあいだで「ばね指」はよく知られていますが、近年ではスマートフォンなどの普及により、一般の人でも「ばね指」に悩む人が増えています。
ばね指は、一度発症すると痛みで指が動かしにくく、日常生活や仕事に支障をきたすこともある厄介な症状です。
最近の研究では、手指の筋肉や神経の働きに欠かせないマグネシウムが不足してしまうと、ばね指や腱鞘炎が悪化しやすくなると考えられています。
そのため、マグネシウムを十分に摂取することで、炎症を抑えたり筋肉のこわばりを和らげたりと、予防や改善に役立つ可能性があります。
そこで本記事ではばね指の概要や治療法、ばね指とマグネシウムの関係について詳しく解説し、日常でも取り入れやすい3つの摂取方法(食事・サプリメント・経皮吸収)を紹介していきます。
ばね指とは?腱鞘炎(けんしょうえん)との関係

ばね指とは、指の腱鞘炎の一種です。
指の腱が炎症を起こし、動かすたびに引っ掛かるような感覚が生じるため、「ばね指」と呼ばれます。
腱が腱鞘内をスムーズに動かなくなることで、指を曲げたり伸ばしたりする際に困難を感じるようになります。
ばね指の原因
ばね指の主な原因は、指を過度に使用することです。
具体的には、以下のような原因があります。
- パソコンやスマートフォンの頻繁な使用
- ピアノの演奏や楽器の演奏
- ゴルフやテニスなどのスポーツ
- 料理で包丁を多用すること
これらの動作を繰り返すことで、指の腱鞘に負荷がかかり、炎症が引き起こされます。
炎症が続くと、腱鞘が肥厚し、腱が腫れて動かしにくくなるのです。
過去には職人や演奏者などに多い症状でしたが、現代ではスマホやPCなどの作業の影響で指が動かしにくいと感じる人も増えており、現代的な症状の1つになりつつあります。
ばね指のメカニズム
指の手の平側には「屈筋腱(くっきんけん)」という組織があり、この屈筋腱は指に沿って先端まで伸びています。
屈筋腱は靭帯性腱鞘というトンネルの中を通っており、通常はスムーズに移動しますが、炎症が起こることによって腱が腫れ、腱鞘内をスムーズに移動できなくなります。
・指を曲げる → 腱が腫れて腱鞘につかえる
・指を伸ばす → 「カクン」と音や感覚がしてバネのように動く
この現象が「ばね指」と呼ばれる所以です。
ばね指の症状
ばね指の典型的な症状には以下のものがあります。
- 指の付け根を押すと痛みがある
- 指を曲げたり伸ばしたりする際に引っ掛かりを感じる
- 起床時に指がスムーズに動かず、曲がったまま伸ばしにくい
症状が軽い場合は、患部を休めることで痛みや違和感が和らぐことがあります。
しかし、明らかに指がスムーズに動かない場合は、ばね指を疑うべきです。
ばね指の2つの治療法

ばね指の治療法としては、保存療法と手術療法の2つがあげられます。
それぞれについて見ていきましょう。
保存療法
ばね指の治療は、まず保存療法(※)から始めることが一般的です。
保存療法には主に以下の5つの方法があります。
※保存療法とは安静、内服、外用(湿布や塗り薬)、ステロイド注射など、初期の治療のことを言います。
- 安静にする:指をできるだけ動かさないようにし、休ませることが重要です。
- サポーターやテーピング:関節を固定することで、腱への負荷を軽減します。
- 痛み止めの服用:痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを使用します。
- 超音波や電気刺激療法:物理療法として超音波や電気刺激を用いて炎症を軽減します。
- 腱鞘内ステロイド注射:炎症を起こしている腱鞘に直接ステロイド薬を注入し、腫れや痛みを抑えます。
症状が強い場合や保存療法で改善しない場合には、腱鞘内にステロイド剤と麻酔薬を注射する「腱鞘内ステロイド注射」が行われることがあります。
これは炎症を直接抑える効果がありますが、繰り返し使用するのは身体に負担がかかるため、継続するのはおすすめではありません。
手術療法
保存療法やステロイド注射で改善しない場合は、手術が検討されます。
手術は、腱鞘を切開して腱の通り道を広げる方法が一般的です。
手術後はリハビリを行い、指の機能を回復させます。
マグネシウムとばね指の関係

マグネシウムは、体内で800以上の体内の化学反応に関与する重要なミネラルであり、特に筋肉の収縮と弛緩、神経伝達、骨の健康において重要な役割を果たします。
手指の筋骨格系組織の運動にも深く関与しているため、マグネシウムの不足はばね指の発症に影響を与える可能性があります。
以下はマグネシウムが不足することで発生すると考えられる、代表的な症状です。
- 筋肉の痙攣:マグネシウムは筋肉の正常な収縮と弛緩に必要です。不足すると筋肉が痙攣しやすくなります。
- 炎症の増加:マグネシウムは炎症を抑える作用があります。不足すると炎症が増加し、腱鞘炎のリスクが高まります。
- 疲労感:エネルギー生成に関与するため、不足すると疲れやすくなります。
下記では14問の質問に回答していくだけで、あなたがマグネシウム不足かどうかをセルフチェックすることが可能です。
ばね指やマグネシウム不足が気になる方は、ぜひ試してみてください。

ばね指に効果的なマグネシウムの摂取方法3選

マグネシウムは主に3つの方法で摂取できます。
食事、サプリメントによる経口摂取と肌から直接摂り入れる経皮吸収です。
以下で順番に解説していきます。
マグネシウムを食品から摂取する
マグネシウムの最も理想的で自然な摂取方法は、食品からの摂取です。
マグネシウムを豊富に含む食品には下記のようなものがあります。
- 緑黄色野菜(ほうれん草、ケールなど)
- ナッツ類(アーモンド、カシューナッツなど)
- 種子類(かぼちゃの種、ひまわりの種など)
- 全粒穀物(オートミール、玄米など)
また、下記の記事ではマグネシウムを豊富に含む食品をランキングで紹介しています。
こちらでは「実際の食事」と「マグネシウムが豊富な食品を使った食事」での比較もおこなっていますので、ぜひあわせてご参照ください。

マグネシウムをサプリメントから摂取する場合
マグネシウムサプリメントは、食事で十分に摂取できない場合の補助として利用されます。
成人の場合1日あたり350mg以下の摂取が推奨されていますが、厚生労働省のリサーチだと日本人の平均は60~70%しか摂取できていないことがわかっています。
参考:令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
関連記事:マグネシウムの1日の「摂取量」と「推奨量」を解説|過剰摂取は危険?
精製食品や加工食品の摂取、ストレスを受けやすい環境、アルコールやカフェインの過剰な摂取など、マグネシウムは現代生活において、なかなか充分に摂取できない栄養素だと言えます。
マグネシウムサプリメントには、錠剤、カプセル、粉末、リキッドなどさまざまな形態がありますが、日本ではまだマグネシウム製品が少なく、ほとんどが海外製品となっています。
関連記事:マグネシウムサプリのおすすめはこれ!人気5選&吸収率で選ぶ失敗しないコツ
また、マグネシウムは細胞に吸収されにくい成分としても有名です。
酸化マグネシウムを使った便秘薬は、マグネシウムが体の細胞に吸収されずに腸まで届く性質を利用しています。
腸の中で水分を引き寄せて便を柔らかくし、排便をスムーズにする仕組みです。
サプリメントでもなかなか吸収されにくいマグネシウムですが、その一方で最新の形状のリポソーム化マグネシウムは細胞にくっつくことで消化経路を通らず細胞に届くことが期待されています。
下記ではサプリで使用される10種類のマグネシウムの効果と特徴を詳しく紹介しているので、自分にあったマグネシウムを見つける参考にしてください。

マグネシウムを経皮から摂取する場合(経皮吸収)
体内で吸収されにくいとされるマグネシウムですが、経皮吸収には向いていると考えられています。
そのため、昔から湯舟に入れて使うエプソムソルト(硫酸マグネシウム)がマグネシウム摂取の1つの方法として使われてきました。
エプソムソルトとは、マグネシウムが含まれる入浴剤のひとつで、肌や筋肉のケアなどに用いられています。
また、最近ではマグネシウムクリームやバームなど、お風呂に入らなくても使えるマグネシウム製品が増えてきました。
特にばね指など、部分的なお悩みがある場合には、気軽に試せる経皮吸収もぜひ試してみてください。
下記ではエプソムソルトを活用したマグネシウムの経皮吸収について詳しくまとめています。
ぜひあわせてご参照ください。

ばね指予防のための生活習慣の見直し

マグネシウムは過度なストレスや生活習慣の乱れで、その多くが消耗されてしまいます。
ばね指がつらいという方は、下記の生活習慣の見直しも取り入れてみてください。
ばね指の予防には、適度な運動が効果的です。特に手指のストレッチや軽いエクササイズを日常的に行うことで、腱や筋肉の柔軟性を保ち、ばね指のリスクを軽減できます。また、全身の筋力を維持するための運動も重要です。
手指のストレッチは、ばね指の予防に効果的です。以下のようなストレッチを日常的に行いましょう
- 指をゆっくりと曲げ伸ばしする
- 手のひらを開いて指を広げる
- 手のひらを壁に押し付けて、前腕の筋肉を伸ばす
手指を使いすぎないように、定期的に休息を取ることが重要です。
長時間パソコンやスマートフォンを使用する場合は、1時間に1回程度、手指を休めるようにしましょう。
まとめ|ばね指の予防にマグネシウムを積極的に摂取しよう!
ばね指は一度悪化すると、日常生活や仕事に大きな支障をきたす厄介な症状です。
指の使い過ぎだけでなく、栄養不足もその原因となるため、食事や生活習慣の見直しが欠かせません。
その中でも、マグネシウムは筋肉や神経の働きをサポートし、炎症を抑える大切なミネラルです。
不足すると腱や筋肉がこわばりやすくなり、腱鞘炎やばね指の悪化につながる可能性があります。
普段の食事からの摂取や、必要に応じてサプリメント、経皮吸収(エプソムソルトやバーム、クリーム)を活用するのも効果的です。
小さな毎日の積み重ねが、ばね指の予防と快適な毎日につながります。
今日からぜひ、マグネシウムを意識して取り入れてみてください。
1) 堀田 裕輔, 河野 正明, 千葉 恭平, 芝 成二郎, 津田 貴史, 沖 貞明:ばね指に対するPIP (IP) 関節固定装具による保存療法の試み. 中国・四国整形外科学会雑誌. 2020 年 32 巻 2 号 p. 253-256
https://doi.org/10.11360/jcsoa.32.253
2) Guerrera MP, Volpe SL, Mao JJ. Therapeutic uses of magnesium. American Family Physician 80:157-162, 2009.