糖尿病は、今や国民病の一つと言われるほど患者数が年々増加しています。
厚生労働省の報告によると、糖尿病が強く疑われる人は全国で約1,000万人。
予備群を含めると、その数は2,000万人を超えるとも推定されています。
その背景には、食生活の欧米化や運動不足、ストレス過多なライフスタイルといった現代的な要因があげられます。
中でも「血糖値のコントロール」は、糖尿病の予防や進行抑制においてもっとも基本かつ重要なポイントです。
そんな中、近年注目されているのが「マグネシウム」です。
マグネシウムは血糖値を安定させる働きに深く関与し、糖尿病リスクの低減にも貢献する可能性があるとされており、さまざまな研究でその有効性が示されています。
今回は、糖尿病とマグネシウムの関係と、マグネシウムを効果的に摂取する方法について、科学的な視点からわかりやすく解説します。
糖尿病予防と対策に関係するマグネシウムの働き

糖尿病は、自覚症状が少ないまま進行するケースが珍しくないため、「サイレント・キラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれています。
はじめに、糖尿病の代表的な症状や見落とされがちなサイン、具体的なリスクや診断基準について解説します。
糖尿病と血糖値の関係
糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が慢性的に高くなる病気です。
糖尿病は大きく分けると、自己免疫によってインスリンが分泌されなくなる「1型糖尿病」と、生活習慣によってインスリンの働きが悪くなる「2型糖尿病」の2種類があります。
日本では2型糖尿病の割合が圧倒的に多いのが現状です。
一般的に血糖値の正常範囲は、空腹時で70~99mg/dL、食後2時間で140mg/dL未満とされています。
この範囲を超えた高血糖状態が続くと、血管や神経にダメージが蓄積され、さまざまな合併症を引き起こす原因となります。
血糖値をコントロールする上で欠かせないのが「インスリン」というホルモンです。
インスリンは膵臓から分泌され、血中の糖を細胞に取り込ませて血糖値を下げる働きを持っています。
しかし、糖尿病になるとこのインスリンの分泌が不十分になったり、うまく作用しなくなったりすることで、血糖値が高い状態が続いてしまうのです。
結果的に、動脈硬化や網膜症、腎症などのリスクが高まります。
血糖値を安定させることは、糖尿病予防だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞といった他の生活習慣病の予防にもつながります。

マグネシウムの基本情報
マグネシウムは、体内に存在する必須ミネラルの一つで、約60%が骨に、残りの多くが筋肉や軟組織に分布しています。
主な働きとして、次のようなものがあげられます。
- 800種類以上の酵素の活性化
- 神経伝達や筋肉の収縮の調整
- エネルギー代謝のサポート
また、体内のマグネシウムが不足すると、次のような不調が現れやすくなります。
- 慢性的な疲労
- 足がつる(こむら返り)
- 血圧の上昇
- 頭痛や気分の落ち込み
特に日本人は、穀物の精製や野菜の摂取量の減少により、マグネシウムが不足しがちだといわれています。
海藻や魚類などの海産物にはマグネシウムが豊富に含まれていますが、2006年の時点で既に水産庁が水産白書にて「魚離れ」の現状を問題視していることからもわかるように、日本では魚をはじめとする海産物の消費が落ち込んでいるのが現状です。
こうした消費者ニーズの変化も、マグネシウム不足を加速させる一因と考えられます。

参考:平成20年度 水産白書│水産庁
糖尿病を予防するマグネシウムの役割
マグネシウムは、細胞内でインスリンの受容体を活性化し、糖の代謝を促進します。
つまり、マグネシウムが十分にあれば、インスリンが正常に働きやすくなり、血糖値のコントロールもしやすくなるのです。
実際、マグネシウムの摂取量が多い人は、糖尿病の発症リスクが低いというデータもあります。
南オーストラリア大学の研究では、中年成人172人の血液を調査した結果、マグネシウムが不足している人は有害なアミノ酸「ホモシステイン」の血中濃度が高い傾向にあることがわかりました。
ホモシステインは遺伝子を傷つけるだけでなく、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、さらにはがんのリスクを高める可能性があるといわれています。
糖尿病の症状とリスク

静かに体を蝕んでいく糖尿病を放置し続けると、やがて深刻な合併症につながる恐れがあります。
ここでは、糖尿病の具体的なリスクや見落とされがちなサイン、診断基準について解説します。
糖尿病の症状
糖尿病は、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。
しかし、血糖値が著しく高くなると次のような症状が現れることがあります。
- のどが渇く(口渇)
- 水分を多く摂る(多飲)
- 尿の回数・量が増える(多尿)
- 体重が減少する
- 強い倦怠感
- 意識がもうろうとする、昏睡状態
また、以下のような不調も、高血糖と関係している可能性があります。
- 疲れやすい
- 集中力の低下や物忘れが増えた
- 目がかすむ、ふらつく
- 足がしびれる、じんじんする
これらは糖尿病の症状だけでなく、神経障害や網膜症といった合併症が原因で起こる場合もあります。
参考:糖尿病の症状ってなに?~無自覚に進行させないために~│独立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
糖尿病症状のピットフォール
糖尿病の厄介な点は、自覚症状がないまま進行してしまうことです。
特に2型糖尿病は、血糖値が高くても日常生活に支障をきたさないことが多いため、病気に気が付かないまま放置されがちです。
しかし、症状が出たときにはすでに合併症が始まっているというケースも少なくありません。
これが、糖尿病の怖さであり、ピットフォール(落とし穴)といわれる所以です。
糖尿病を早期発見するには、慢性的な疲労感や物忘れなど、些細な変化を見逃さない心掛けが大切です。
糖尿病のリスク
糖尿病でもっとも恐ろしいのが、いわゆる「三大合併症」と呼ばれる病気を発症するリスクです。
三大合併症とは、「糖尿病性網膜症」「糖尿病性神経障害」「糖尿病性腎症」の三つです。
糖尿病性網膜症は、血糖コントロールが悪い状態が続くことで、目の中にある網膜が血管障害を起こし、重症化すると視力の低下や失明といったリスクがある病気です。
糖尿病性神経障害は、足先のしびれや、足の裏に紙が貼りついたような感覚、指先の感覚がなくなったりしびれたりといった症状から始まるケースが大半です。
神経障害が重症になると痛みを適切に感じ取ることが難しくなり、心筋梗塞をはじめとした体の異常に気付くことができず、治療時期を逃したり突然死したりといったリスクにつながることも。
糖尿病性腎症:人工透析が必要になるケースも
これらの合併症は、糖尿病を適切に管理できていない場合に進行しやすくなります。
参考:【糖尿病】何より怖い合併症│全国健康保険協会
糖尿病の診断基準
糖尿病は、血糖値(空腹時の血糖値が126mg/dL以上)とHbA1c値(6.5%以上)を基準に診断されます。
血糖値は皆さんご存知の通り、血液中に含まれる糖度(ブドウ糖)の割合を示す数値です。
HbA1cは、血液中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合を示すもので、「ヘモグロビンA1c」と表記されることもあります。
これらがともに糖尿病型であれば糖尿病と診断され、どちらか一方のみが該当する場合は「糖尿病疑い」として、最終的な診断へ向けて追加の検査や経過観察を行います。
参考:糖尿病とは│JADEC
マグネシウムを効果的に摂取するには

マグネシウムの重要性がわかっていても、「実際にどうやって摂ればいいの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
マグネシウムは、特定の食品に多く含まれているほか、サプリメントや経皮吸収といったさまざまな方法で補うことができます。
ここからは、マグネシウムを効率よく摂取するための方法をご紹介します。
食事を工夫する
マグネシウムは、海藻やナッツ類、豆類、全粒穀物などに豊富に含まれています。
身近な食べ物でマグネシウムをもっとも含んでいるのは、素干しで乾燥された「あおさ」です。
あおさには100gあたり3200mgものマグネシウムが含まれています。
続いて「あおのり」は1400mg、「ひじき」は640mgと、海藻類にマグネシウムが豊富に含まれていることがよくわかります。
これらを日常の食事に取り入れることで、無理なく効率的にマグネシウムを補給できます。

サプリメントを活用する
忙しくてバランスの取れた食事が難しい場合は、サプリメントでマグネシウムを補給するのも選択肢の一つです。
サプリメントは、手間をかけず手軽に栄養素を摂取できるのが利点ですが、適切な分量を用いないと、過剰摂取になりやすい側面もあります。
マグネシウムは過剰摂取しても比較的リスクが低いミネラルですが、腎障害や糖尿病など、特定の条件下では過剰摂取や副作用のリスクが高まる場合があります。
サプリメントを活用する際は、過剰摂取にならないよう1日の目安量を守って使用しましょう。

経皮吸収で補う
欧米では昔から一般的だった「マグネシウムオイル」や「エプソムソルト(マグネシウム入浴剤)」ですが、近年はマグネシウムの経皮吸収の有効性が注目されるにつれ、日本でもマグネシウムを活用したオイルや入浴剤が話題になっています。
肌に塗るだけだったりお風呂に入れたりするだけと、使い方が簡単な上に、効果をすぐに実感しやすいため、手軽に取り入れやすい方法です。

生活習慣を見直す
マグネシウムは、ストレスや運動不足のほか、睡眠不足などでも消耗しやすくなります。
マグネシウムを意識的に摂取するのは大切ですが、マグネシウムを消耗させる悪習慣を改善する目線も大切です。
食事や経皮吸収でマグネシウムを摂取するだけでなく、適度な運動を心掛けたり、良質な睡眠を意識したりして、体内のマグネシウム効率向上を目指しましょう。
マグネシウム摂取における注意点

マグネシウムは基本的に安全な栄養素ですが、サプリメントで大量に摂取すると、まれに下痢や吐き気を引き起こすことがあります。
また、腎機能に問題がある方はマグネシウムの排出がうまくいかないことがあり、摂取量に注意が必要です。
糖尿病治療中の方は、自己判断でのサプリ使用は避け、必ず主治医や管理栄養士と相談して取り入れるようにしましょう。

マグネシウムを多く含む食品の利点のひとつは、それらが食物繊維を豊富に含む炭水化物でもあることです。こうした食品は、マグネシウムの摂取を助けるだけでなく、血糖値の急上昇も防いでくれます。食物繊維には、余分なブドウ糖の吸収を抑える働きがあるからです。
一方で、ジャンクフードや白米、パスタ、麺類など、食物繊維の少ない炭水化物は、血糖値を急激に上げるうえ、体内のマグネシウムを消耗しやすい傾向があります。低繊維のこうした食品を過剰に摂取すると、糖尿病のリスクが高まるおそれがあります。
参考:マグネシウムの働きと1日の摂取量│健康長寿ネット
まとめ|マグネシウム活用して糖尿病を対策しよう

糖尿病は、生活習慣の中に潜むさまざまな要因が複雑に絡み合って発症する病気です。
糖尿病を予防したり対策したりするには、血糖値のコントロールが何よりも重要です。
そのサポート役として、マグネシウムが大きな力を発揮する可能性があります。
意識的にマグネシウムを食生活に取り入れることで、インスリンの働きを助け、糖の代謝を促し、さらには合併症のリスクの軽減につながるかもしれません。
もちろんマグネシウムばかり摂取すればいいわけでなく、カルシウムやビタミンDなど、さまざまな栄養素をバランス良く摂取することが大切です。
とはいえ、現代日本人にはマグネシウムが不足しがちですから、まずは今日の食事から、マグネシウムを意識した新たな習慣を始めてみてはいかがでしょうか。
