お酒を飲んだ翌日、「体がだるい…」「疲れが抜けない…」「頭がボーっとする…」
そんな経験はありませんか?
アルコールは体内のマグネシウムを大量に排出してしまうため、飲酒習慣がある多くの方がマグネシウム不足の傾向になりがちです。
オックスフォード大学の研究によると、飲酒後24時間で尿中マグネシウムの排出量が平均2〜3倍に増加することが明らかになりました。
この記事では、アルコールとマグネシウムの関係を医学論文をもとに解説し、二日酔いや疲労を防ぐ効果的なマグネシウムの補給方法を解説します。
お酒が好きな方や毎日アルコールが欠かせない方は、本記事を参考に、体に無理のない飲酒習慣を心がけてみてください。
アルコールでマグネシウムが不足する3つの理由

アルコールを摂取すると、体内のマグネシウムが急速に失われていきます。
その主な理由は以下の3つです。
利尿作用により尿と一緒に排出される
アルコールには利尿作用があり、これがマグネシウム不足の最も大きな原因です。
お酒を飲むとトイレが近くなることがあるかと思いますが、これはアルコールの利尿作用によるものです。
アルコールは、体が水分を保つために働く「抗利尿ホルモン」の働きを弱めてしまいます。
その結果、通常よりも多くの尿が作られ、体から水分が失われます。
この時、水分だけでなくマグネシウムも一緒に流れ出てしまうのです。
複数の研究で、アルコール摂取とマグネシウム欠乏の関連性が示されており、以下の2つの論文を紹介します。
慢性的なアルコール依存症患者と血中マグネシウム濃度
医学誌にも掲載された論文「 Pathogenetic mechanisms of hypomagnesemia in alcoholic patients.」によると、慢性的なアルコール依存症患者は健康な対照群と比較して血中マグネシウム濃度が有意に低いことが報告されています。
この研究では127人の慢性的にアルコールを摂取している被験者を対象とした実験で、血中と尿のマグネシウム数値を観測。
すると、慢性的にアルコールを摂取している被験者の多くが血中のマグネシウム不足が観測されたほか、尿検査では高マグネシウム濃症(マグネシウムが多く排出されている)ことがわかりました。
アルコール摂取後の尿中マグネシウム排出量
オックスフォード大学の研究では、アルコール摂取後の尿中マグネシウム排出量が増加することが示されています。
24名の健康な男女を対象に、飲酒前と飲酒24時間後の尿を検査したところ、アルコール摂取後、尿中マグネシウム排出量が平均で2〜3倍に増加。
これは、アルコールが腎臓でのマグネシウム再吸収を妨げることによるものであると考えられます。
アルコールが腎臓でのマグネシウム排泄を促進し、体内のマグネシウムレベルを低下させるメカニズムを明らかにしています 。
参考:Magnesium in the treatment of alcohol withdrawal syndrome: a multicenter randomized controlled trial|Oxford University Press
腎臓でのマグネシウム再吸収が阻害される
マグネシウムの場合、約90〜95%が腎臓で再吸収され、尿として捨てられるのはわずか5〜10%だけです。
ところが、アルコールはこの再吸収の働きを邪魔してしまいます。
医学誌「Journal of Trace Elements in Medicine and Biology」に掲載された研究では、127人の習慣的にお酒を飲む人を調べたところ、38人(約30%)が低マグネシウム血症であることが分かりました。
さらに詳しく調べると、血液中のマグネシウム濃度が低いのに、尿中のマグネシウムが異常に多いという結果が出ました。
このことは体がマグネシウムを必要としているのに、腎臓がうまく回収できず、そのまま尿として流れ出ていたことを示しています。
つまり、毎日のようにお酒を飲む習慣がある方は、どんなに食事でマグネシウムを摂っても、体に留めておけない悪循環に陥っている可能性があると言えます。
参考:Magnesium in Chronic Kidney Disease: Should We Care?|PubMed
参考:Pathogenetic mechanisms of hypomagnesemia in alcoholic patients.|Semantic Scholar
アルコール分解にマグネシウムが消費される
お酒を飲むと、肝臓がアルコールを分解します。
この分解作業には大量のエネルギーと栄養素が必要で、マグネシウムもその1つです。
アルコールはまず有毒な「アセトアルデヒド」という物質に変わります。
これが二日酔いの主な原因です。
この有毒物質を無害化するために、肝臓は多くの酵素を使いますが、この酵素が働くためにはマグネシウムが欠かせません。
つまり、お酒を飲めば飲むほど、アルコールを分解するためにマグネシウムが消費され、体の中のマグネシウムがどんどん減っていくことになります。
そして、マグネシウムが不足することで、アルコールの分解が遅れ、二日酔いがひどくなったり、疲れが取れにくくなったりするのです。
さらに、日本人の多くはもともとマグネシウムが不足しがち。
厚生労働省の調査によると、平均的な日本人は必要量の60〜70%しかマグネシウムを摂れていません。
この状態でお酒を飲むと、ただでさえ足りないマグネシウムが、排出と消費でさらに減ってしまうことになります。
お酒をよく飲む人が慢性的に疲れやすい理由の1つは、このためです。
参考:日本人の食事摂取基準(2025年版)|厚生労働省
参考:令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
マグネシウム不足で起こる症状

アルコールによってマグネシウムが不足すると、体にさまざまな不調が現れます。
症状は、飲酒直後から現れる急性のものと、長期的な飲酒習慣によって次第に現れる慢性的なものに分けられます。
それぞれの症状を詳しく見ていきましょう。
急性の症状(飲酒直後〜翌日)
お酒を飲んだ直後から翌日にかけて現れる症状としては、以下のようなものがあります。
| 状態 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 二日酔いの悪化 | 頭痛、吐き気、めまいが強く出る |
| 強い疲労感・だるさ | 体が重い、動きたくない、エネルギーが出ない |
| 筋肉の痙攣・こむら返り | ふくらはぎがつる、まぶたがピクピクする、手足が震える |
| イライラ・不安感 | 些細なことで怒りやすい、気分が落ち込む |
| 動悸・不整脈 | 心臓がドキドキする、脈が乱れる |
慢性的な症状(長期的な飲酒習慣)
毎日のようにお酒を飲む習慣がある方は、マグネシウム不足が慢性化してしまうため、より深刻な症状が現れやすくなります。
| 状態 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 慢性的な疲労 | 休んでも疲れが取れない、朝起きるのがつらい |
| 睡眠の質の低下 | 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、眠りが浅い |
| 頻繁な筋肉の痙攣 | こむら返りが頻繁に起こる、筋肉が硬い |
| 骨が弱くなる | 骨密度の低下、骨粗しょう症のリスク増加 |
| 高血圧 | 血圧が上がりやすい、心血管疾患のリスク増加 |
| 糖尿病のリスク増加 | インスリン抵抗性、血糖値のコントロール低下 |
| うつ症状 | 気分の落ち込み、不安障害、精神的不調 |
マグネシウム不足セルフチェック
アルコールの摂取や飲酒などのよる、マグネシウム不足が気になる方は以下のセルフチェックをご活用ください。
自分がマグネシウム不足になっていないかどうかの目安が、14問の質問に答えていくだけでわかりますよ。
しかも、たった1分で完了できます。

お酒を飲む人に必要なマグネシウムの摂取量

マグネシウムの摂取量について、ここでは厚生労働省の公式データから「一般的な推奨摂取量」と、想定される「飲酒習慣がある人の必要量」を割り出していきましょう。
一般的なマグネシウムの推奨摂取量
厚生労働省によると、成人の推奨マグネシウム摂取量は以下の通りです。
- 男性(18-29歳):340 mg/日
- 男性(30-49歳):380 mg/日
- 男性(50-64歳):370 mg/日
- 男性(75歳以上):330 mg/日
- 女性(18-29歳):280 mg/日
- 女性(30-49歳):290 mg/日
- 女性(50-64歳):290 mg/日
- 女性(75歳以上):270 mg/日
参考:日本人の食事摂取基準(2025年版)|厚生労働省
多くの日本人は平均的に必要摂取量の約60〜70%ほどしか摂取できていません。
それにも関わらず、お酒を飲むことでさらにマグネシウム不足が加速してしまうことが懸念されます。
関連記事:マグネシウムの1日の「摂取量」と「推奨量」を解説|過剰摂取は危険?
飲酒習慣がある人の必要量
お酒を飲むと、尿からのマグネシウム排出が通常の2〜3倍に増加し、さらにアルコール分解にもマグネシウムが消費されます。
そのため、飲酒習慣がある方は、先ほどの通常の推奨量に加えて、さらに100〜200mgのマグネシウムをプラスして補給すると良いでしょう。
二日酔い・疲労を防ぐマグネシウムの3つの補給法

マグネシウムは私たちの体内の800以上の化学反応の関わる必須ミネラルです。
ここでは、アルコールを摂取する際にマグネシウムを効果的に補給する3つの方法についてご紹介します。
食事からの摂取
まずは、マグネシウムを豊富に含む食品を積極的に摂取することが推奨されます。
特に、ナッツ類や豆類、緑黄色野菜を意識的に摂ることが重要です。
下記ではマグネシウムが豊富な食品を厚生労働省のリストを元にランキングでお伝えしています。
ぜひあわせてチェックしてみてください。
サプリメントの活用
食事から十分なマグネシウムを摂取できない場合は、サプリメントを活用することも1つの方法です。
現代人の食生活は精製食品や加工食品の摂取、食の欧米化などでどうしてもマグネシウム不足を引き起こしやすく、またお酒を飲めばもっと不足してしまうため、手軽にマグネシウムを補えるサプリメントの活用は有効な手段と言えます。
ただし、実はマグネシウムは吸収されにくい成分としても知られており、サプリメントの種類や構造によっては副作用の下痢(下剤に使われる理由でもある)や胃のむかつきなどを引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
下記の記事では10種類ものマグネシウムの特徴と効果について徹底解説しているので、ぜひあわせてご参照ください。
経皮吸収
経皮吸収とは、肌からマグネシウムを吸収させる方法です。
昔からマグネシウムをお風呂に入れるエプソムソルトなどがメジャーな経皮吸収方法のひとつでしたが、最近はお風呂に入れない場合にも使えるバームタイプのマグネシウムも人気です。
経皮吸収ですと、食事やサプリメントといった経口吸収と違って、胃腸に負担をかけず、効率的に補給できるというメリットがあります。
関連記事:エプソムソルトの効果とは?知っておきたい効能&正しい使い方を解説
飲酒時のマグネシウム摂取のタイミングと効果

マグネシウムは「いつ摂るか」も重要です。
飲酒前、飲酒中、飲酒後のそれぞれのタイミングで摂取することで、二日酔いや疲労を軽減することが期待できます。
飲酒前の摂取
アルコールを摂取する前にマグネシウムを摂取することで、体内のマグネシウムレベルを維持しやすくなります。
飲酒前にマグネシウムを含む食事やサプリメントを摂取することで、以下のようなアルコールによるマグネシウム排出を抑える効果が期待できます。
- アルコール分解能力の向上
- 二日酔いの予防・軽減
- 翌日の疲労感の軽減
飲酒中の摂取
飲酒中にもマグネシウムを意識して摂取することが重要です。
例えば、マグネシウムを含むミネラルウォーターでお酒を割ったり、アルコール摂取中に下記のようなマグネシウムが豊富な食品をおつまみにしたりしてみましょう。
- 冷奴
- 海藻サラダ
- ナッツ類
- ほうれん草のおひたし
飲酒後の摂取
飲酒後は、アルコールの利尿作用により失われたマグネシウムを補充するために、マグネシウムを摂取することが推奨されます。
飲酒後にマグネシウムを含む食品やサプリメントを摂取することで、体内のマグネシウムレベルを回復できます。
また、エプソムソルトを使った入浴やマグネシウムのバームやクリームで経皮吸収によるケアもおすすめです。
アルコールとマグネシウムに関するよくある質問

アルコールとマグネシウムに関して、よくある質問に回答していきます。
Q1:マグネシウムを摂れば二日酔いを防げますか?
完全には防げませんが、症状の軽減は期待できます。
マグネシウムは、アルコールの分解を助け、二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドの代謝をサポートします。
そのため、頭痛、吐き気、倦怠感などの症状を軽くする効果が期待できます。
ただし、マグネシウムは、あくまで二日酔い対策の1つとして考えましょう。
Q2:お酒を飲む前と後どちらでマグネシウムを摂るのが良いの?
理想は両方ですが、あえて優先するなら「飲酒前」です。
・飲酒前: 体内のマグネシウム濃度を高めておける(予防効果)
・飲酒後: 失われた分を補給できる(回復効果)
時間がない場合は、少なくとも飲酒前に摂取すると良いでしょう。
Q3:毎日お酒を飲む人はどれくらいマグネシウムを摂取すべき?
1日520〜570mgが目安です。
・通常の推奨量:380mg(30代男性の場合)
・飲酒による追加分:+100〜200mg
・合計:480〜580mg/日
(※注意: 食品以外からのマグネシウム摂取量の耐容上限量は、成人の場合 350 mg/日とされています)
参考:6. 1. 4.マグネシウム(Mg)|厚生労働省
まとめ|マグネシウムの補給でアルコール(お酒)とうまく付き合おう!
アルコールは、利尿作用や腎臓での再吸収阻害、代謝での消費という3つの理由で、体内のマグネシウムを通常の2〜3倍も失わせます。
その結果、二日酔いの悪化、疲労感、こむら返り、イライラなどの症状が現れ、長期的には高血圧や糖尿病のリスクも高まることを覚えておきましょう。
飲酒習慣がある方は、通常の推奨量に加えて1日100〜200mgのマグネシウムを補給する必要があります。
アルコールを摂取する人は特にマグネシウム欠乏のリスクが高いため、日常的にマグネシウムを含む食品やサプリメントを意識して摂取することが推奨されます。
お酒は適度に嗜めば人生を豊かにするものですが、健康あってこそ楽しめるもの。
マグネシウムの重要性を再認識し、積極的に取り入れていきましょう
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」.
- Elisaf, M., Merkouropoulos, M., Tsianos, E. V., & Siamopoulos, K. C. “Pathogenetic mechanisms of hypomagnesemia in alcoholic patients.” Journal of Trace Elements in Medicine and Biology, 1995. この研究では、アルコール依存症患者が健康な対照群と比較して血中マグネシウム濃度が低いことが示されました。
- Agus, Z. S., & Morad, M. “Magnesium and the heart.” Annals of Internal Medicine, 1991. この研究は、アルコール摂取後の尿中マグネシウム排出量の増加を示し、アルコールがマグネシウムの代謝に与える影響を明らかにしています。
- Whang, R., & Ryder, K. W. “Frequency of hypomagnesemia and hypermagnesemia. Requested vs routine.” JAMA, 1990.
- Rude, R. K., Gruber, H. E., Norton, H. J., & Wei, L. Y. “Reduction of dietary magnesium by only 50% for four weeks induces bone loss and alters trabecular architecture in rats.” Journal of Nutrition, 2003.
- Resnick, L. M., Altura, B. T., & Gupta, R. K. “Intracellular and extracellular magnesium depletion in type 2 (non-insulin-dependent) diabetes mellitus.” Diabetologia, 1993.

