鵞足炎(がそくえん)はあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、「膝の内側が痛い」「膝の腱が炎症を起こしている」といった状態を指します。
特に加齢による筋力低下で中高年の女性やランニングやウォーキングなどを日常的に行う人に起こりやすい症状です。
歩くたびに痛みが生じたり、階段の上り下りで膝に違和感があったりと、日常生活にさまざまな支障が出てくるため、困っている方も多いのではないでしょうか?
鵞足炎の治療方法にはさまざまな方法がありますが、今回はマグネシウムの役割を活かした日々の健康維持方法や、マグネシウムと鵞足炎の関係、最新の研究から見るマグネシウムが鵞足炎に及ぼす影響などについて、わかりやすく解説していきます。
そもそも鵞足炎(がそくえん)とは?

鵞足炎(がそくえん)とは、膝の内側にある「鵞足(がそく)」という腱の集合部に起こる炎症のことです。
鵞足は以下の3つの筋肉の腱が集まる場所で、膝の内側に位置します。
・縫工筋(ほうこうきん)
・薄筋(はっきん)
・半腱様筋(はんけんようきん)

これらが鵞鳥(ガチョウ)の足のように扇状に広がっていることから「鵞足」と呼ばれます。
医療・整形外科の分野では一般的に使われる言葉ですが、一般の人々にはあまりなじみがない専門用語だと言えるかもしれません。
鵞足炎の症状
鵞足炎の主な症状は、膝の内側にある骨の出っ張り付近の痛みです。
痛みや違和感を感じやすいのは、以下のような場合です。
- ランニング
- 階段の上り下り
- 長時間の歩行
- 膝を曲げる動作
- ジャンプ時
- 長時間の立ち仕事
- 正座
- 和式トイレの利用時
また、触れると熱感があったり、腫れを感じる場合もあります。
初期段階ではちょっとした痛みや違和感を感じる程度ですが、進行すると慢性的な痛みに発展することもあるため、早期の対応が必要です。
鵞足炎の原因と治療法
鵞足炎の主な原因は、膝の内側にある「鵞足」に繰り返し負担がかかることです。
ジョギングや登山、ヨガなど、膝の屈伸を頻繁に行う動作が引き金となります。
また、股関節や骨盤の歪み、足のアーチの崩れなども原因となりますし、筋力不足や柔軟性の低下も要因の一つです。
鵞足炎の基本的な治療法としては、以下のような方法があります。
治療法 | 詳細 |
---|---|
安静にする | 負荷のかかる運動を控える |
冷却する | アイシングで炎症を抑える |
ストレッチやリハビリを行う | 柔軟性と筋力の改善を図る |
消炎鎮痛薬を使う | 湿布や内服を利用する |
テーピングやインソールを利用する | 歩行時の負担を軽減する |
ただ、炎症が強かったり、痛みがひかなかったりする場合には、局所麻酔薬やステロイド薬の注射、ごくまれに手術といった治療法が用いられることもあります。

カナダで臨床医として勤務していた頃、私はアスリートに限らず、膝の痛みを訴える多くの患者さんを診てきました。
前述の治療法に加えて、マグネシウムの経口サプリメントや経皮吸収タイプの併用をおすすめすることもあり、その結果、患者さんの回復が早まる傾向があることを実感していました。
休息・アイシング・ストレッチ・マッサージなどは非常に効果的な「外側からのアプローチ」です。
しかし、もし体内のマグネシウムが不足していれば、これらの方法だけではその不足を補うことはできません。
だからこそ、マグネシウム補給という「内側からのアプローチ」が大切なのです。
マグネシウムと鵞足炎の関係

マグネシウムは体内の800以上の酵素反応に関わる重要なミネラルであり、炎症や筋肉の働きとも密接に関わっています。
ここからは、マグネシウムの働きと炎症を抑えるメカニズムを見ていきましょう。
マグネシウムの基本的な働き
マグネシウムは主に以下のような働きがあります。
- 筋肉の収縮と弛緩を調整する
- 血管や血圧の調整を行う
- 神経の興奮を抑え、伝達を正常に保つ
- エネルギー代謝をサポートする
- 骨の形成と維持を助ける
- 便通を整える
- 炎症反応を調整する
マグネシウムが不足すると筋肉が緊張しやすくなったり、こむら返りが起こりやすくなったり、ケガや炎症の原因にもなります。
現代人は特にマグネシウム不足の傾向にあるので、日頃からマグネシウムの摂取を意識するとよいでしょう。

マグネシウムが炎症を抑えるメカニズム
マグネシウムは、一部の研究で炎症物質の調整に関与する可能性があると示されています。
マグネシウムはこの炎症を強くする物質(サイトカイン)の出すぎを防ぐことで、痛みや腫れを和らげてくれるのです。
また、マグネシウムは体の中の「サビ(酸化ストレス)」を防ぐ働きもあり、これも炎症を鎮めるのに役立っています。
マグネシウムが不足すると、体が炎症を抑えにくくなり、関節や筋肉の痛みが長引く可能性があるので、日常的な摂取を心がけましょう。
鵞足炎にマグネシウムは有効?最新研究から考えられる根拠

現時点で「マグネシウムが鵞足炎に直接効果的である」とする明確なデータや証拠は発見されていませんが、マグネシウムが間接的に炎症や痛みを和らげ、鵞足炎に作用すると考えられる研究があります。
そこで今回は以下の3つの研究を紹介していきます。
- 鵞足炎とマグネシウムの研究1:マグネシウム補給による筋肉痛の改善
- 鵞足炎とマグネシウムの研究2:マグネシウムの抗炎症作用
- 鵞足炎とマグネシウムの研究3:マグネシウムが筋肉回復をサポート
鵞足炎とマグネシウムの研究1:マグネシウム補給による筋肉痛の改善
以下の2024年の研究では、マグネシウム補給が運動後の筋肉痛を軽減し、パフォーマンスと回復を向上させることが示されています。
“These studies showed that MgS reduced muscle soreness, improved performance, recovery and induced a protective effect on muscle damage.”
「これらの研究は、硫酸マグネシウム(MgS)が筋肉痛を軽減し、パフォーマンスや回復を向上させ、筋損傷に対する保護効果をもたらすことを示しました」
引用:Effects of magnesium supplementation on muscle soreness in different type of physical activities: a systematic review|PubMed
特に、運動前2時間にマグネシウムを摂取することで、筋肉損傷の予防効果があるとされる報告があります。
鵞足炎とマグネシウムの研究2:マグネシウムの抗炎症作用
2024年のこちらの研究では、マグネシウムが関節炎において炎症と痛みを軽減するという報告がありました。
“MgCl2 given systemically or locally displayed anti-inflammatory activity in a severe acute arthritis model reducing cell influx, pain, and cytokine release.
〜This is the first in vivo demonstration that MgCl2 decreases cytokine release in arthritis, prompting reduction of inflammation and pain relief.”
「塩化マグネシウム(MgCl₂)を全身または局所に投与したところ、重度の急性関節炎モデルにおいて、細胞の浸潤・痛み・サイトカインの放出を抑える抗炎症作用が認められました。
〜これは、関節炎においてMgCl₂がサイトカインの放出を抑制し、それによって炎症の軽減と痛みの緩和を促すことを示した初めての生体内での実証です」
引用:Systemic and local antiinflammatory effect of magnesium chloride in experimental arthritis|Springer Nature
鵞足炎とマグネシウムの研究3:マグネシウムが筋肉回復をサポート
同様にこちらの最新の記事では、マグネシウムが神経伝達や筋肉の収縮・弛緩、エネルギー代謝において重要な役割を果たし、筋肉の回復をサポートすることが解説されています。
“The 2022 Reno trial demonstrated 350mg daily intake reduced soreness intensity by 42% within 48 hours compared to placebo groups.
Cyclists supplementing with 400mg for three weeks exhibited 19% lower muscle damage markers after competitive events, as shown in 2019 performance data.”
「2022年のリノ試験では、1日あたり350mgのマグネシウムを摂取することで、プラセボ群と比較して48時間以内の筋肉痛の強さが42%軽減されたことが示されました。
また、2019年のパフォーマンスデータによると、3週間にわたって1日400mgのマグネシウムを摂取したサイクリストは、競技後の筋損傷マーカーが19%低かったことが確認されています」
引用:agnesium and Muscle Function: The Mineral Science Behind Recovery|Editverse.com
これらの研究は、マグネシウムが筋肉の健康と回復において重要な役割を果たすことを示しており、マグネシウムが炎症を抑え、筋肉を緩めることで、筋肉や関節の健康維持を通じて、膝まわりの違和感のケアに役立つ可能性があります。
鵞足炎の予防にマグネシウムを取り入れる方法

では実際に鵞足炎の予防にマグネシウムをどのように取り入れればいいのか、代表的な摂取方法である「経口摂取」と「経皮吸収」の2つについて解説します。
マグネシウムを経口摂取する
最も一般的な摂取方法は、マグネシウムを含む食材を口から摂取する方法です。
食事からの摂取が自然な方法であり、マグネシウムは海藻、ナッツ類、大豆製品、バナナなどに豊富に含まれています。
また、食事だけではなかなか摂取することが難しい場合は、補助的にサプリメントを活用することもおすすめです。

マグネシウムを経皮吸収する
もう一つの方法はマグネシウムを経皮吸収(肌から吸収)する方法です。
マグネシウムが配合されたバームやクリーム、オイル、スプレー、バスソルトなど多種多様な製品がインターネットサイトやドラッグストアなどで今は市販されています。
鵞足部(膝の内側)などに直接塗布することで、胃腸に負担をかけることなく、マグネシウムを直接届けられるのが経皮吸収のメリットと言えるでしょう。
100%天然由来成分の製品やポケッタブルな持ち運びしやすい製品を選べば、場所や時間を問わずに気軽にサッとケアできる点も経皮吸収の魅力の一つです。

まとめ:鵞足炎の予防には日常的なマグネシウムの摂取を!

鵞足炎は膝の内側に炎症が起きることで痛みや不快感を引き起こす疾患であり、日常的なケアやマグネシウムを使った予防的なアプローチで改善が期待できる疾患です。
今回紹介したマグネシウムの摂取方法(食事、サプリメント、経皮吸収)をご自身のライフスタイルに合わせて活用していただき、自然な方法で体を整えることで、鵞足炎の予防や膝の健康を長く保つことができるはずです。
今日から試しに、ちょっとしたケアやマグネシウムの摂取で鵞足炎の予防や緩和だけでなく、より豊かな心と体のメンテナンスを始めてみましょう!