コンビニやスーパー、デパ地下、ショッピングモールなどでは、生鮮から加工食品まで、星の数ほどの食品が販売されています。
これほどまで多くの食べ物に溢れているものの、現代日本人の食生活は、栄養バランスが偏りやすいと言われています。
特に現代人が気付かないうちに不足しやすい栄養素の一つとしてあげられるのが、「マグネシウム」です。
骨の健康について考えるとき、私たちはついカルシウムにばかり目がいってしまいがちですが、実はマグネシウムも同じくらい重要な役割を担っています。
今回は、マグネシウムが骨の健康とどう関わっているのか、また、マグネシウムが不足すると骨にどんな影響を及ぼすのかについて、詳しく解説します。
マグネシウム不足が心配な方は、ぜひ本記事を参考にご自分の体との付き合い方を見直してみてください。
骨の健康とマグネシウムの関係

昔から「骨を丈夫にするならカルシウムを摂りなさい」と言われていますが、実は単にカルシウムをたくさん摂取するだけでは十分ではありません。
マグネシウムもまた、骨の強度や密度を支える重要な栄養素であり、カルシウムとともにマグネシウムをバランス良く摂取することで、健康を維持するミネラルとしていずれも十分に機能します。
はじめにマグネシウムの基本的な働きと、骨との深い関係について説明します。
マグネシウムとは?
マグネシウムは、人体に存在する必須ミネラルの一つです。
必須ミネラルとは、人体機能を正常に維持するために必要なミネラルのうち、人間が体の中で合成できないもののこと。
もっと簡単に言うと、必須ミネラルは「生きていくために必ず摂取しなければならない栄養素」です。
人間の体は、糖質・脂質・たんぱく質の三大栄養素のほか、ビタミンやミネラルなどの補酵素の支えがあって成り立っています。
酵素が正常に機能することで、私たちの体は健康でいられるのです。
そして、その酵素を支えているのが、まさにマグネシウムなのです。
マグネシウムは、人間の体の中で800以上の酵素反応に関わっており、筋肉や神経の働きをはじめ、エネルギー代謝や血圧の調整など、生命活動のあらゆる場面で重要な役割を果たしています。
逆にマグネシウムが不足すると酵素の働きが鈍くなり、骨や筋肉などの人体機能が低下するばかりでなく、体のあちこちに不調が表れる可能性があります。

マグネシウムと骨密度
これまで、骨粗しょう症の予防には、カルシウムの積極的な摂取が推奨されるのが一般的でした。
しかし、近年はマグネシウムの重要性が改めて注目されています。
最新の研究では、マグネシウムの摂取量が多い人ほど、骨折のリスクが低いことがわかっています。
マグネシウムが、骨を形成する「骨芽細胞(こつがさいぼう)」の働きをサポートし、カルシウムが骨の中に取り込まれる橋渡し役を果たしているためです。
ですから、いくらカルシウムを積極的に摂取しても、マグネシウムが不足してしまうと、せっかく摂取したカルシウムが骨の形成にうまく使われなくなってしまいます。
つまり、骨密度を高めて骨粗しょう症を予防するには、カルシウムとマグネシウムをバランスよく摂取することが重要なのです。

マグネシウム不足の原因
マグネシウムが不足してしまう原因はさまざまですが、もっとも根本的には「現代的な食生活」があげられるでしょう。
先述した通り、マグネシウムは体の中で合成できないため、マグネシウムを含む食べ物や飲み物から摂取しなければなりません。
マグネシウムは穀物や海藻類、魚介類、種実類(かぼちゃの種など)に豊富に含まれていますが、現代では魚介類の消費量が右肩下がりで、昔の日本のように穀物を食べる機会も激減し、多くの人が白米やパン、ラーメンなど、マグネシウム含有量が十分でない食生活を送っています。
一昔前の日本では、子どものおやつにかぼちゃの種やひまわりの種、ふかしいもなどを与えることが珍しくなかったといいますが、現代ではコンビニやスーパーなどで購入した菓子類を与えるのが普通です。
私たちの食生活も西欧化し、今では食卓で焼き魚や煮魚を出す家庭も減少傾向にあるといいます。
こうした食生活の変化が、日本人のマグネシウム不足の一因になっているのは間違いないでしょう。

カナダは緯度が高いため、太陽光によるビタミンDの合成が期待できるのは、5月から9月のわずかな期間だけです。そのため、ビタミンD不足が深刻な問題となっています。私たちのクリニックでは、この時期に毎日15〜20分程度の日光浴をするよう患者に勧めてきましたが、それだけでは冬に備えて十分なビタミンDを確保できないケースが大半でした。骨の健康や免疫機能の維持のためにも、より確実な対策が課題だったのです。
そこで当クリニックでは、ビタミンDの血中濃度を5月と9月の年2回測定していました。これにより、患者のビタミンDの増減を把握でき、今後の方針を立てる目安となりました。
ビタミンDの効果を最大限に引き出すためには、マグネシウムとビタミンK2の存在も欠かせません。マグネシウムはビタミンDを体内で活性化する役割を果たし、ビタミンK2はカルシウムを骨に届けて定着させます。ですから、ビタミンDの検査は最低でも年に1回は行い、併せてマグネシウムの補給と、ビタミンK2の摂取を意識するのが理想的です。
また、マグネシウムはストレスやアルコールの摂取、糖分の過剰摂取などによって消耗されます。
「ストレス社会」といわれる現代社会ですが、ストレスから解放されようと飲酒を繰り返すと、マグネシウムを過剰に消耗してマグネシウム不足を招きやすくなる悪循環へ陥ります。
マグネシウムは年齢を重ねるほど吸収率が低下するため、特に中高年以降は注意が必要です。
マグネシウムが不足すると、足がつりやすくなったり、こむら返りが多くなったりなどの症状が表れやすくなります。
また、慢性的な疲労感やイライラ、不眠、便秘なども、マグネシウム不足が原因の場合があります。
マグネシウム不足が気になる方は、医師監修の「マグネシウム診断」で、マグネシウムが足りているかどうかをチェックしてみてはいかがでしょうか。

骨粗しょう症の現状
骨粗しょう症は、今や中高年の多くが直面する健康リスクの一つです。
2024年時点で、40歳以上の骨粗しょう症推計患者数はおよそ1,590万人にものぼっています。
そのうち、男性が約410万人、女性は1,180万人と、女性の方が2〜3倍も多い状況です。
推奨されるマグネシウムの1日の摂取量は、成人男性で320〜370mg、女性では260〜300mg。
しかし、実際の平均摂取量は約230mg程度とされ、多くの人が慢性的なマグネシウム不足に陥っていると考えられています。
骨粗しょう症を防ぐためにも、日々の食事と生活習慣の見直しは急務と言えるでしょう。

参考:6. 1. 4.マグネシウム(Mg)│厚生労働省
参考:生活習慣病の調査・統計│日本生活習慣病予防協会
マグネシウムの摂取方法

では、マグネシウムはどのようにして摂取するのが望ましいのでしょう?
ここからは、マグネシウムを効率よく体に取り入れる具体的な方法をご紹介します。
マグネシウムが豊富な食事を摂る
最初に見直したいのは、やはり食生活です。
マグネシウムは、次のような食品に多く含まれているので、これらの食品を食事に取り入れるよう工夫してみましょう。
- 玄米、雑穀、全粒粉パン
- 納豆、豆腐、豆類
- 海藻類(ひじき、わかめ)
- アーモンド、くるみなどのナッツ類
- バナナ、ほうれん草などの野菜・果物
特に海藻類には、マグネシウムが豊富に含まれています。中でもあおさには、100gあたり3200mgものマグネシウムが含まれています。これは、小さじ1杯で160mgものマグネシウムを摂取できる量です。
お味噌汁やふりかけ、カレーやシチュー、煮込み料理などにあおさを加えるなどして、上手にマグネシウムを摂取しましょう。
また、間食やおやつにはかぼちゃの種を食べたり、アーモンドやくるみなどのナッツ類を食べるのもいいでしょう。
マグネシウムが豊富な食材については、「マグネシウムを効率よく摂る方法!豊富な食品ランキング&簡単献立例」で詳しく解説しています。併せてご覧ください。

栄養バランスに配慮する
骨を強くするためにはカルシウムやマグネシウムといったミネラルが欠かせませんが、それ以外の多様なミネラルも、骨の形成に直接的あるいは間接的に関わっています。
たとえばビタミンDは、カルシウムとリンの吸収を助け、血液中のカルシウム濃度を高めて骨の形成を促します。
ビタミンKも骨の形成を促しますし、ビタミンB群は骨の健康維持に役立ちます。
大豆製品に豊富に含まれるイソフラボンも、骨粗しょう症予防に欠かせない栄養素です。
大切なのは、これらの栄養素をバランス良く摂取すること。
とはいえ、中にはビタミンDのように体内で合成されるものもあるので、やはり現代人に不足しがちなマグネシウムを意識的に摂るようにしたいところです。
各種栄養素を豊富に含む食材を、一覧にまとめました。
栄養素 | 食品名 |
---|---|
カルシウム | 牛乳、小魚、チーズなど |
ビタミンD | 鮭、卵、きのこ類など |
ビタミンK | 納豆、ブロッコリー、ほうれん草など |
ビタミンB群 | 豚肉、レバー、卵黄など |
イソフラボン | 大豆製品 |
参考:骨粗鬆症における栄養│公益財団法人 骨粗鬆症財団
特定の食品の過剰摂取に気をつける
多忙な人が増えるにつれ、現代の食生活は多様化と同時に「栄養が偏りやすい状況」にあります。
忙しくなると自炊するのが難しくなり、必然的に外食やお惣菜、お弁当、レトルトなどの加工食品に頼らざるを得なくなります。
それでも工夫すればバランス良く栄養を摂取することも可能ですが、「そこまで気を回していられない」という人も多いでしょう。
たとえば、電子レンジで温めるだけで食べられる加工食品やスナック菓子は、手軽に食べられて満足感も大きいので便利ですが、リンの摂り過ぎに気をつけなければなりません。
また、インスタント麺やカップ麺、ラーメンなどは塩分が高いため、ナトリウムやカルシウムが排出されやすくなります。
コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどのカフェインを含む飲料やアルコールも同様に、マグネシウムをはじめとするミネラルの排出を促すだけでなく、カルシウムの吸収やビタミンDの働きを阻害します。
さらに、アルコールは骨折リスクを高めるという報告もあるため、日常的に飲酒する人は特に注意が必要です。
サプリメントや入浴剤を活用する
食事だけでマグネシウム不足を補おうとしても、現実的に難しい人もいるでしょう。
その場合は、サプリメントや入浴剤を活用するのがおすすめです。
特にエプソムソルトなど、マグネシウムを主成分として構成される入浴剤は、マグネシウム不足をサポートするだけでなく、血行を促進したり筋肉の緊張を和らげたりといった効果にも期待できます。
なぜなら、マグネシウムは経口摂取だけでなく、皮膚からも吸収できるからです。
マグネシウム風呂は気分のリフレッシュだけでなく、快適な睡眠を得るのにも役立つので、ぜひ上手に活用しましょう。

骨粗鬆症予防のためにできる生活習慣

骨の健康を保つには、食事と並行して日々の生活習慣の見直しも重要です。
ここでは、すぐにでも取り入れられる3つのおすすめ習慣をご紹介します。
日光浴
日光を浴びることで、皮膚でビタミンDが合成されます。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨の形成にも不可欠です。
1日15〜30分程度、腕や顔に日光を当てるだけでも効果があるので、天気の良い日は散歩を楽しんだり、日光浴でリフレッシュしたりしましょう。
適度な運動
心身の健康には適度な運動も欠かせませんが、骨の健康を守るためにも欠かせません。
というのも、適度な刺激を受けることで骨の強さが維持されるからです。
逆に、骨に刺激を与えない時間が長くなる(寝た切り状態など)と、骨は強度を失って骨折しやすくなります。
エスカレーターやエレベーターを使わず、できるだけ階段を利用したり、近所への外出時に車を利用せず、できるだけ歩くようにしたりするだけでも、十分な効果に期待できます。
また、階段の上り下りを習慣にしたり、起床後や就寝前のストレッチを習慣にしたりするのもいいでしょう。
もし、時間や気力に余裕があれば、ウォーキングやジョギングなどを日課にすると理想的です。
無理のない範囲で、継続できる習慣を見つけましょう。
参考:食事と運動│iihone.jp
生活習慣の改善
喫煙や飲酒は、気分をリフレッシュしたり、人とのコミュニケーション機会を創出したりするのに有効ですが、一方で、骨の代謝を妨げることがわかっています。
こうした嗜好品を無理にやめると、それはそれで精神的なストレスになるかもしれません。
ただ、煙草やお酒が骨やその他の健康を害する可能性があるということを頭の片隅に留めておけば、いつか「やめよう」と思ったときに、その知識が力になるはずです。
あるいは、お酒をよく飲むからこそ、普段から積極的にマグネシウムを摂取しよう──という意識を持つことにもつながるでしょう。

まとめ|骨を支えるマグネシウム習慣を取り入れよう

骨の健康を守るには、カルシウムだけでなくマグネシウムも重要です。
特にマグネシウムは、カルシウムと並んで「現代人にもっとも不足しやすいミネラル」の一つです。
いずれも不足すると骨密度が低下し、骨折や骨粗しょう症のリスクが高くなります。
いつまでも健康で元気な体でいるために、まずは日々の食事や生活習慣を見直してみましょう。
暮らしの中にマグネシウムを上手に取り入れていくことが、骨の健康を守る第一歩です。