見た目はなにもないのに、肌がかゆくてたまらない!
そんなかゆみだけの自覚がある症状を「皮膚搔痒症(ひふそうようしょう)」と言います。
その発症原因は内臓疾患や薬剤、乾燥肌、メンタル不調などさまざまなものが挙げられますが、その原因の1つにマグネシウム分不足が関係しているのです。
マグネシウムは体内で800以上の酵素反応に関わり、皮膚のバリア機能や炎症の抑制にも関係しているミネラルです。
マグネシウム不足の状態になると、皮膚の保湿力が低下し、体内でアレルギー反応や炎症を引き起こすヒスタミンの過剰分泌につながり、かゆみを感じやすくなってしまいます。
そこで、今回は医師監修の元、論文を用いながらマグネシウムと肌のかゆみの関係やマグネシウムによる肌のかゆみ対策、マグネシウムの効率的な2つの摂取方法について解説します。
監修:村田先生
■プロフィール
平成19年に大阪市立大学医学部医学科を卒業後に初期臨床研修を2年間修了後。
平成21年より大阪急性期総合医療センターで外科後期臨床研修。
平成22年より大阪労災病院で心臓血管外科後期臨床研修。
平成24年より国立病院機構大阪医療センターにて心臓血管外科医員として研鑽。
平成25年より大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師。
平成26年より救急病院で日々修練しております。
見た目は普通なのに肌のかゆみがつらい?!皮膚掻痒症とは?

皮膚がかゆいのにもかかわらず見た目は特に異常がなく、強いかゆみの症状だけ自覚することを「皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)」と呼んでいます。
皮膚掻痒症は、発疹がないのにかゆみだけがある疾患であり、全身にかゆみが起こる場合や、外陰部や頭部などに局所的に認められる場合が多いです。
その発症原因は内臓疾患や薬剤、乾燥肌、メンタル不調などさまざまであり、また、抗ヒスタミン剤が効きにくいという特徴もあります。
皮膚掻痒症は、皮脂の欠乏や発汗の低下などによる角層の乾燥によって、外部の刺激から皮膚を守るバリア機能が失われている状態であり、日本皮膚科学会ガイドラインによると皮膚科の外来を受診する日本人の約6.8%が皮膚掻痒症と診断されていることがわかりました。
発症頻度としては、やや女性に多い疾患であり、特に妊産婦やHIV患者、慢性C型肝炎や尿毒症の場合に認められやすいと指摘されています。
参考:皮膚瘙痒症診療ガイドライン 2020|日本皮膚科学会ガイドライン
皮膚掻痒症になると、通常よりも知覚神経が刺激を受けやすくなり、全身のあらゆる部位において痒みがでてしまい、慢性的に痒みが続くこともありますし、夜間にかゆみの症状でよく眠れないという方もいます。
皮膚掻痒症が引き起こされる原因は、
- 皮膚の乾燥
- 服用している薬の副作用
- 引っ搔いた部位に炎症を起こした二次的に湿疹
- 肌バリアの低下
- 乾燥
- 内臓疾患
- 精神的ストレス
などが挙げられます。
この中でもっとも多い原因として挙げられるのは、乾燥です。
皮膚の角層で水分が低下することに伴い皮膚が乾燥することで、見た目的に異常がなくてもかゆみが生じる場合があります。
特に高齢者には、皮膚の水分や皮脂の分泌が若年者よりも少なくなるため、冬の時期などに皮膚が乾燥してかゆみが起こることがあるので注意が必要です。
また、まだ肌の弱い子供なども乾燥が原因でかゆみが発症する場合があります。

肌のかゆみの原因4選

乾燥以外にも、肌のかゆみの原因は多岐に渡ります。
主な原因として以下の4つを取り上げ、それぞれ解説していきます。
- 薬の副作用と疾患の影響
- アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応
- 生活習慣
- マグネシウム不足
薬の副作用と疾患の影響
一部の薬は副作用としてかゆみを引き起こすことがあります。
たとえば利尿剤や解熱鎮痛剤、抗菌剤などは、服用中に皮膚のかゆみや発疹を伴う場合があるのです。
また、肝硬変などの肝臓の病気をはじめとして、慢性腎不全や血液透析中の場合、甲状腺機能異常などの内分泌疾患、白血病や悪性リンパ腫などの血液疾患などが肌のかゆみの原因となる場合もあります。
それ以外にも、身近な疾患である痛風や糖尿病でも肌のかゆみが起こりえますし、精神的な要因で皮膚がかゆくなることも。
もし症状が続く場合は必ず医師に相談し、薬の変更や外用薬の併用など適切な対応を受けることが大切です。
アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応
花粉やハウスダスト、食べ物、化学物質などのアレルゲンに体が反応すると、免疫細胞からヒスタミンが放出され、皮膚に強いかゆみや赤みを引き起こします。
アトピー性皮膚炎や蕁麻疹のような慢性的な症状の背景にも、このアレルギー反応が深く関わっています。
原因となるアレルゲンを避けると同時に、抗ヒスタミン薬や保湿ケアで症状を和らげることが有効です。
生活習慣
不規則な生活や睡眠不足、過度な飲酒・喫煙、栄養バランスの乱れもかゆみを悪化させる要因です。
これらは体内のホルモンや自律神経の働きを乱し、皮膚のターンオーバーや血流を低下させます。
その結果、乾燥や炎症が進行し、肌がかゆみに敏感になります。
また、入浴時の熱いお湯や強い洗浄力のある石けんも皮脂を奪い、かゆみを助長することに。
日常の習慣を整えるだけでも、肌の健康を守り、かゆみを和らげる効果が期待できます。
マグネシウム不足
マグネシウムは体内で800以上の酵素反応をサポートし、皮膚の水分保持や炎症の抑制、神経伝達の安定化に欠かせません。
不足すると肌のバリア機能が弱まり、乾燥や外部刺激に敏感になり、かゆみが起こりやすくなると考えられます。
また、マグネシウムが不足することで、アレルギー反応に関わるヒスタミンの過剰分泌を抑える作用も低下するため、赤みや炎症を伴うかゆみが悪化しやすくなります。
普段からの食生活やサプリメントの活用など、マグネシウムを意識して摂取することが、肌トラブルの予防につながるのです。
下記ではマグネシウムをスキンケアに摂り入れるメリットについて、さらに詳しくお伝えしています。
乾燥などが気になる方は、こちらもあわせてご参照ください。

肌のかゆみ対策にマグネシウムが重要といわれる理由

マグネシウムには下記のような働きがあるといわれています。
- 保湿
- アトピー対策
- 抗炎症作用
- ヒアルロン酸生成の促進
これらはかゆみの原因の改善に影響を与えています。
マグネシウムは、多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、皮膚、および骨形成や筋骨格の安定度を正常に保つのに必要な栄養素です。
しかも、マグネシウムが関わる体内の化学反応は約800種類以上あるといわれており、欠乏すると肌の水分や皮脂のバランスが崩れやすくなったり、炎症がおこりやすくなったりするのです。
肌の保湿力やバリア力にも影響を与えるヒアルロン酸生成について、2021年12月に日本人の研究者によって発表された論文では、遺伝的にマグネシウムチャネルの障害を持つ患者さんを調査しています。
マグネシウムチャネルに障害がある患者さんは、皮膚バリアの損傷がみられますが、細胞内の塩化マグネシウム濃度が上昇すると、ヒアルロン酸を合成する酵素(HAS)が増加し、ヒアルロン酸(HA)の生成も増加することがわかったのです。
そのため、肌の細胞内のマグネシウム不足を補うことで、ヒアルロン酸の低下を防いだり、正常な生成を促すことが考えられます。

また、Journal of Biomedicineで掲載されている研究によると、マグネシウムがアトピー性皮膚炎および脂漏性皮膚炎の症状改善に役立つ可能性が示されています。
同研究では、5%の高濃度マグネシウムを局所的に使用した患者が、わずか4日間の治療で顕著な症状の改善がみられたとの結果がでました。
つまり、この実験ではマグネシウムを経皮吸収することで、症状の改善が見られたということです。
参考:Magnesium of Dead Sea Salts as a Key Factor for the Treatment of Seborrheic and Atopic Dermatitis: A Case Report|Journal of Biomedicine
このように、マグネシウムが十分に補われていれば、肌を健康に保つことができると言えるでしょう。
関連記事:経皮吸収とは?肌から成分が吸収される仕組みを分かりやすく解説
マグネシウム不足がかゆみの原因かも?今すぐセルフチェック!

日本人の多くは食生活の欧米化やインスタント食品の摂取、ストレス過多の影響などによりマグネシウムが不足しているといわれています。
関連記事:マグネシウム不足の原因とは?体に起こる症状や改善策も解説!
厚生労働省が推奨する摂取量を考慮すると、男性は約37%、女性は約32%ほど、マグネシウムの摂取量が毎日足りていないということになるのです。
参考:令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
肌のかゆみが気になる方は、ぜひ医師監修の「マグネシウム不足セルフチェック」を試してみてください。

下記ではマグネシウムが多く含まれる食品を24品も紹介しているので、こちらもあわせてご覧ください。

肌のかゆみに作用するマグネシウムの2パターンの摂取方法

マグネシウムの摂取方法は大きく2パターンあります。
- 食品(海藻、豆類、玄米、ナッツなど)やサプリメントで摂取する:経口摂取
- 入浴(エプソムソルト)やバーム、クリームなどで摂る:経皮吸収
以下でそれぞれ解説していきます。
食品(海藻、豆類、玄米、ナッツなど)やサプリメントで摂取する:経口摂取
まず基本となるのは食品からの摂取です。
マグネシウムは海藻、豆類、玄米、ナッツなどに豊富に含まれており、日常の食事から自然に補えます。
不足が心配な場合は、手軽に摂れるサプリメントを併用するのも有効です。
体の内側からマグネシウムを補給することで、皮膚の保湿力や炎症抑制に関わる働きが整い、かゆみを感じにくい肌環境づくりにつながります。
関連記事:コンビニで買えるマグネシウム食品10選!手軽にマグネシウム補給!
関連記事:マグネシウムサプリのおすすめはこれ!人気5選&吸収率で選ぶ失敗しないコツ
入浴(エプソムソルト)やバーム、クリームなどで摂る:経皮吸収
入浴時にエプソムソルトを湯に溶かすと、皮膚からマグネシウムが吸収され、血流促進やリラックス効果とともに肌のバリア機能アップが期待できます。
また、バームやクリームでの塗布も同様に経皮吸収が期待でき、乾燥やかゆみが出やすい部位を直接ケアできるのでおすすめです。
こうした方法は、体の外側から日常的に手軽にアプローチできる方法として活用しやすいのがメリットです。
以下の記事ではエプソムソルトの効果や具体的な入浴方法を紹介しているので、こちらを参考にご自身でぜひ試してみてください。
エプソムソルトとは?知っておきたい3つのメリットと3つのデメリット
まとめ|肌のかゆみ対策にマグネシウムの摂取は重要
肌のかゆみは乾燥やアレルギー、生活習慣などさまざまな要因で起こりますが、見落とされがちなのがマグネシウム不足です。
マグネシウムは肌の保湿力や炎症抑制に関わり、内側からの食品・サプリ摂取と外側からの経皮吸収を組み合わせることで、かゆみにくい健やかな肌づくりにつながります。
近年では皮膚科でも取り扱われるようになってきたマグネシウム。
「なぜだかわからないけどかゆい!」
「つらいかゆみで眠れない!」
「家族や子供のかゆみがかわいそう…」
そのように感じられる方はぜひ今回の記事を参考に、マグネシウムを摂取して肌のかゆみ対策をお試しください。
1)福生吉裕:マグネシウム製剤の臨床治療への有効性. 東京未病研究会雑誌. 1995 年 1 巻 1 号 p. 20-28.
DOI https://doi.org/10.11288/mibyou1995.1.20
2)平澤 一浩, 小野 真吾, 塚原 清彰ら:当帰四逆加呉茱萸生姜湯が奏功した難治性外耳搔痒症例. 日本東洋医学雑誌. 2021 年 72 巻 3 号 p. 260-263
DOI https://doi.org/10.3937/kampomed.72.260