出産という大きなライフイベントを終えると、ほっとする間もなく育児がスタートします。
赤ちゃんとの新しい生活は喜びに満ちていますが、体の不調や心の不安定さに悩む方が多いのも現実です。
眠れない夜が続いたり、理由もなくイライラしてしまったり、ふとしたことで涙が出たり…。
こうした産後特有のコンディションは、決して「意思の弱さ」や「気のせい」によるものではありません。
実は、産後の不調にはホルモンバランスの急変や睡眠不足、栄養不足など、さまざまな要因が複雑に絡んでいます。
中でも近年注目されているのが、体内の「マグネシウム不足」です。
マグネシウムは、心の安定や筋肉・神経の働き、エネルギーの代謝に深く関わるミネラルであり、産後の回復を助ける鍵となる栄養素です。
今回は、産後にマグネシウムが必要な理由と、マグネシウムの効果的な摂取方法について詳しく解説します。
なぜ産後は心と体が不安定になるのか?

出産を経ると、ほとんどの女性が体と心の大きな変化に直面します。
可愛い我が子との新しい生活が始まる一方で、体調不良や情緒不安定など、予想以上の不調に悩まされる人は少なくありません。
日本産婦人科医会によると、妊娠中にうつ病を患う女性は約10%。産後のうつ病を患う女性は10~15%で、産後3ヵ月以内に発症するケースが多いとされています。
産後のこうした不安定さには、いくつかの原因があります。
参考:産後うつ病について教えてください│日本産婦人科医会
ホルモンバランスの急変
出産直後は、体内のエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが急激に減少します。
この急激なホルモンの変動が、自律神経の乱れや情緒不安定、慢性的な疲労感の原因です。
「産後にPMSがひどくなった…」という女性は多いですが、これもホルモンバランスの急変による典型的な症状です。
特にプロゲステロンの減少は、神経伝達物質であるセロトニンの分泌にも影響し、産後うつなどのリスクを高める要因になります。
睡眠不足と体力低下
母親にとって、赤ちゃんは何よりも可愛い存在です。
しかし、そうとはいっても、現実問題として新生児の授乳や夜泣きなどによる慢性的な睡眠不足や、産前産後でガラリと変わったライフスタイルへの適応など、新生児のママには大変な苦労がたくさんあります。
ただでさえ、回復すべき体力が十分に戻らないまま日常生活が始まるため、心身ともに疲労が蓄積しやすい状態です。
また、パートナーの協力や両親などのサポート、職場の育休制度など、周囲の環境も母親のコンディションを大きく左右します。
栄養不足とストレス
出産や授乳によって母体は栄養を大きく消耗しますが、育児に追われて食事が偏りがちになったり、疲労やストレスで消耗したりすると、さまざまな不調が表れやすくなります。
たとえば、栄養不足に拍車がかかったり、体内のミネラルバランスが崩れたりして、頭痛や便秘、イライラなどに悩まされるケースは少なくありません。
1995年に実施された「妊娠および産後の排便困難の実態調査」では、産後の便秘に悩む女性の多さが浮き彫りとなりました。
167人中102人に便秘の訴えがあり、半数近くに緩下剤の投与が必要だったとされています。
2005年に発表された日本看護学会論文集においても、妊娠16週以降の妊婦の40~60%が便秘を自覚しているとされています。
こうした背景から、プロゲステロンの原料にもなる「マグネシウム」が、産後の体と心のケアに効果的な栄養素として注目されています。
参考:女性のお悩み、生理痛について│はり・きゅう処 葵
参考:産褥期における排便困難の実態│四国大学看護学部看護学科、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
マグネシウムが産後に必要な理由

産後の女性の体は、ホルモンバランスの不安定さ・睡眠不足と体力低下・栄養不足とストレスなど、見た目以上に大きなダメージと負担を抱えています。こうした不調のサポートや心身のケアに、「マグネシウム」の機能性が期待されています。
マグネシウムは、エネルギー代謝や神経伝達、筋肉の動きなどに関与する、体に欠かせないミネラルです。特に産後は、心身のマグネシウムへのニーズがいっそう高まるタイミングです。
ここからは、マグネシウムが産後の体と心をどのようにサポートするのかを解説します。
マグネシウムの基本的な役割
マグネシウムは、800以上の体内酵素の働きを助ける必須ミネラルで、心身の健康維持に欠かせません。
特に産後の女性にとっては、以下のような働きが重要です。
マグネシウムの働き | 期待できる効果 |
---|---|
骨の健康維持 | ケガや骨粗しょう症の予防 |
筋肉の健康維持 | こむら返りの予防や改善。リラックス作用。パフォーマンス向上や柔軟力UPなど。 |
脳神経系の調整 | 睡眠の改善、精神の安定、食欲コントロールなど |
エネルギー生成 | 代謝UP、肌質の改善、細胞の健康維持など |
心血管の健康維持 | 高血圧リスクの軽減、不整脈の予防など |
血糖値コントロール | ダイエット効果、血管への負担・軽減、食欲コントロールなど |
抗酸化作用 | エイジングケア、がん予防など |
腸内の水分コントロール | 便秘の改善、腸の健康改善、セロトニン生成のサポートなど |

産後に起こりやすい不調とマグネシウム不足の関係
マグネシウムが不足すると、産後に以下のような症状が悪化しやすくなります。
症状 | マグネシウムの働き |
---|---|
イライラ、情緒不安定 | 神経伝達物質の生成をサポート |
不安感、うつ症状 | セロトニン、ドーパミン不足を改善 |
こむら返り、筋肉のけいれん | 筋肉の収縮・弛緩をサポート |
慢性的な疲労感 | エネルギー代謝をサポート |
便秘 | 腸内の水分保持・蠕動運動を促進 |
さらに、マグネシウムが不足すると、以下のような疾患リスクが高まる可能性もあります。
症状 | マグネシウムの働き |
---|---|
高血圧・心血管 | 血管を拡張し、血圧を適切にサポート |
糖尿病 | インスリンの働きをサポート |
骨粗しょう症 | カルシウムと連携して骨密度を維持 |
不眠症 | 睡眠ホルモン「メラトニン」の合成をサポート |
片頭痛 | 血管の収縮異常によるリスク軽減 |


マグネシウムと産後うつの関係
産後にPMSがひどくなったり、体質が変わって気分のムラも激しくなったりというのは、よく聞く話です。
出産によってホルモンバランスが変わるわけですから、出産を機に心身のコンディションに変化が表れるのは何も不思議ではありません。
しかし、うつ病のように気分が落ち込んだり、食欲不振や不眠などに悩まされたりする「産後うつ」は、できるだけ避けたいものです。
最近の研究では、マグネシウムの不足が産後うつの発症に関係していることがわかってきました。
特にセロトニンやGABA(γ-アミノ酪酸)といった神経伝達物質のバランスが崩れると、情緒不安定やうつ症状が現れやすくなるとされています。
ただでさえ現代人のライフスタイルは、マグネシウムが不足しやすいといわれています。
マグネシウムは、ホルモンバランスを健康的な状態で維持する重要な役割を果たしており、産後うつを予防するためにも積極的に補給したいところです。
参考:食事・栄養学的側面からの女性のメンタルヘルス│国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第三部
産後にマグネシウムを摂取する5つのポイント

ホルモンバランスが急激に変わり、体内にミネラルが不足しやすい産後は、できるだけ積極的にマグネシウムを摂取したいものです。
本項では、マグネシウムを効率的に摂取する方法をご提案します。
食事で自然に摂る
日常の食事に、できるだけマグネシウムが豊富に含まれている食材を取り入れましょう。
マグネシウムが豊富に含まれている食材と、おすすめの食べ方を表にまとめました。
食材 | おすすめの食べ方 |
---|---|
玄米や雑穀米 | 白米の代わりに |
納豆や豆腐(大豆製品) | 納豆ご飯や冷奴などそのまま食べるのがベスト |
わかめやあおさ、海苔など(海藻類) | サラダや味噌汁に |
かぼちゃの種やアーモンド(ナッツ類) | 間食などおやつ代わりに |
ほうれん草や小松菜、トマトなど(緑黄色野菜) | 毎日の副菜に |
吸収率を高める食べ合わせ
食事からマグネシウムを摂取する習慣は大切ですが、経口摂取におけるマグネシウムの吸収率は30~40%程度とあまり高くありません。
そこで、食べ合わせを工夫し、マグネシウムの吸収率UPを図るのがおすすめです。
マグネシウムは、ビタミンDやビタミンB群と一緒に摂ることで吸収が高まります。
また、発酵食品(ヨーグルトやぬか漬けなど)や、食物繊維を豊富に含む食品は腸内環境の改善に役立つので、吸収効率をさらに高める効果に期待できます。
マグネシウムの吸収をサポートしてくれる代表的な食品を以下にまとめました。
食品名 | 説明 |
---|---|
赤魚(まぐろ、ぶりなど) | ビタミンD、ビタミンB6が豊富。 |
白身魚(鮭、カレイなど) | 特に焼き鮭はビタミンD、ビタミンB6が豊富。 |
青魚(さんま、いわし、しらすなど) | ビタミンDのほかオメガ3脂肪酸が豊富。 |
きのこ類(しいたけ、きくらげなど) | 特に乾燥したものはビタミンDが豊富。 |
玄米 | マグネシウム、ビタミンB6ともに豊富。 |
豚ヒレ肉 | ビタミンB1が豊富。 |
レバー(牛・豚) | ビタミンB2のほか鉄分も豊富なので、産後のケアにおすすめ。 |
参照:食品成分データベース│文部科学省

マグネシウムサプリメントの活用
産後は、新しい暮らしがスタートするとともに、家事や育児に追われがちです。
忙しくて食事でマグネシウムをカバーするのが難しい場合は、サプリメントで効率的にマグネシウムを摂取するのがおすすめです。
ただし、産後や授乳中はできるだけ「無添加・食品由来」の商品を選ぶようにし、不安な場合は医師と相談の上で使用する製品を選びましょう。

経皮吸収を取り入れる
マグネシウムは、バームやオイル、入浴剤などを活用して肌からも吸収できます。
マグネシウムオイルを肌に塗ったり、エプソムソルトを使った入浴は、リラックスしながら栄養補給ができる産後ママにぴったりの方法です。
食事の工夫やサプリメントの活用などと併せ、スキンケアや入浴時などのリラックスタイムなどにマグネシウム製品を活用することで、不足しがちなマグネシウムを効率的かつ日常的に補給することができます。

摂取のタイミングを工夫する
マグネシウムは就寝前に摂ると吸収率が高まりやすく、睡眠の質向上にも役立ちます。
夕食後〜就寝1時間前程度を目安に、基本的にはサプリメントで取り入れてみましょう。豆類や海藻、ナッツなどマグネシウム豊富な食品でも構いませんが、消化の事を考えると少量から試したり、よく噛んで食べるのがおすすめです。
産後はホルモンバランスの変動や授乳による疲労で眠りが浅くなりがちです。
夜のリラックスタイムにマグネシウムの摂取を習慣づけることで、心身の回復を促し、翌朝の目覚めもすっきりさせてくれます。
マグネシウム摂取の注意点

マグネシウムは、過剰に摂取しても余分なものは尿として排出されるため、過剰摂取のリスクは低いとされています。
しかし、腎機能が低下している場合は、「高マグネシウム血症」となる可能性があるため注意が必要です。
高マグネシウム症は、腎機能障害のほか、腸管疾患のある高齢患者も発症のリスクがあります。
初期症状としては、嘔吐、徐脈、筋力低下、傾眠などがあげられます。
妊娠中・授乳中の摂取量は、1日あたり390mg未満(通常は350mg)を目安とし、心配な方は医師や栄養士に相談しながら取り入れると安心です。
参考:マグネシウムの働きと1日の摂取量│健康長寿ネット
参考:酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症について│厚生労働省
まとめ|マグネシウムで産後の心と体を優しくケアしよう

出産はゴールではなく、新しい生活のスタートです。人生の大きな転機の中、母親としての役割を十分に果たすために、まずはご自分の体と心を労わることが大切です。

もう一つ大切なポイントとして覚えておきたいのが、「妊娠前の母体の健康状態」がとても重要だということです。妊娠すると、女性の体には大きな代謝的な負担がかかります。そのため、マグネシウムをはじめとしたさまざまな栄養素の不足を防ぐためには、妊娠前からサプリメントなどを活用して栄養状態を整え、妊娠中はもちろん、特に産後まで継続的に栄養を補うのが理想的です。
とはいえ、すべての妊娠が計画通りに進むわけではありません。だからこそ、妊娠に気づいたタイミングからでも、栄養管理を意識し始めることが大切です。
マグネシウムは、産後のさまざまな不調をサポートしてくれる心強い味方です。日々の食事に取り入れたり、サプリや経皮吸収を活用したりなど、無理なく続けられる方法でマグネシウムを効率的に摂取することで、より健やかで穏やかな産後ライフを送ることができます。
小さなセルフケアの積み重ねが、あなたと赤ちゃんにとっての大きな安心につながるでしょう。さっそく今日から、できることから始めてみませんか?
