厚生労働省によれば、日本人の「約15人に1人」が生涯でうつ病を経験するとされています。
うつ病は性別や年齢に関係なく、誰にでも発症する可能性がある病気です。
適切な治療が行われない場合には自殺のリスクが高まり、命に関わる深刻な病気にもなり得ます。
うつ病は環境の変化や人間関係によるストレス、マイナス思考やゼロヒャク思考といわれる思考のクセ、過去のトラウマなど、さまざまな要因が複雑に絡みあって引き起こされます。
しかし、うつ病の要因の1つにマグネシウム不足が挙げられることは、あまり知られていません。
マグネシウムは脳内の神経伝達物質のバランスを整え、ストレスホルモンを抑制する重要なミネラルです。
「天然の精神安定剤」とも呼ばれ、うつ病の予防や症状の緩和につながる可能性があることが、数多くの科学的研究で明らかになっています。
今回はマグネシウムとうつの関係を科学的根拠をもとに明らかにし、今日から実践できるうつを予防するマグネシウムの摂取方法を3つ紹介します。
マグネシウムとうつの関係とは?

マグネシウムは体内で800種類以上の酵素反応に関与し、生命維持に欠かすことのできないミネラルです。
マグネシウムとうつの関係を明らかにするため、まずはマグネシウムの具体的な働きを理解し、それからうつの原因を知ることで両者の関係性をひも解いていきましょう。
マグネシウムは天然の精神安定剤
マグネシウムは健康に欠かせない重要なミネラルであり、私たちの体内で以下のような多種多様な働きをしています。
- 骨の健康を保つ
- 神経伝達をコントロールする
- 心機能を維持する
- 体温や血圧を調節する
- 体内のミネラルバランスを調整する
- 筋肉を緩める
- 便秘を改善する
また、注目すべきはマグネシウムが精神の安定にも作用するという点です。
「天然の精神安定剤」と呼ばれるように、マグネシウムには以下の3つの働きがあります。
- 神経伝達物質の合成をサポートする
- ストレスホルモンの分泌を抑制する
- 脳のエネルギー代謝を改善する
そのためマグネシウムが不足すると、神経伝達のコントロールがうまくいかなくなり、うつの症状があらわれやすくなるのです。
うつ病になる原因
うつ病の原因は1つではなく、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。
例えば以下のような要因です。
| 要因 | 具体例 |
|---|---|
| 生物学的要因 | 神経伝達物質の不調、ホルモンの異常、遺伝など脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の不調、ホルモンバランスの変化(女性の場合、出産後や更年期など)、遺伝など。 |
| 心理的・社会的要因 | 仕事や人間関係による過度なストレス、経済的な問題、孤独感や孤立、過去のトラウマなど。 特に、完璧主義や責任感が強い人、ネガティブ思考の傾向がある人は、ストレスを溜め込みやすく、うつ病を発症しやすいとされています。 |
| 身体的要因 | 慢性的な疲労、睡眠不足、慢性疾患(糖尿病、心臓病、がんなど)も、うつ病のリスクを高めます。 |
| 栄養不足 | マグネシウム不足、オメガ3脂肪酸不足、ビタミンD不足、亜鉛不足、鉄分不足、ビタミンB群不足。 |
うつ病というと、その人のメンタルや性格に焦点が当てられがちですが、神経伝達物質の不調や栄養不足といったことも要因の1つなのです。
特にマグネシウムが不足すると、以下のような症状が現れやすくなり、うつ病を発症するリスクが高まります。
- 興奮しやすい
- イライラする
- 眠れない
- 常に不安である
- 気分の浮き沈みが激しくなる
更年期のうつ症状…そのメカニズムとは?
オーガニックサイエンスの公式YouTubeチャンネルでは、更年期のうつ症状について以下の動画で詳しく解説しています。
アロリエクリニックの院長で、産婦人科専門医である市川りえ先生が、約1分ほどでわかりやすく話してくれているので、今すぐご覧ください。
【科学的根拠】マグネシウムがうつ予防に効果的な理由

ここでは、信頼性の高い最新研究をもとに、マグネシウムがうつ予防に及ぼす効果を詳しく解説します。
食事中のマグネシウム摂取でうつ病リスク34%減
2025年、権威ある医学雑誌「Oxford Academic」に発表されたメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)では、マグネシウム摂取とうつ病の関係について、以下の結果が報告されました。
13の研究(総参加者数50,275人)を統合して解析。
・マグネシウム摂取量が最も多い人は、最も少ない人に比べてうつ病のリスクが34%低い。
・マグネシウム摂取量が1日100mg増加するごとに、うつ病のリスクが7%低下。
・特に170mg/日〜370mg/日の摂取量で、うつ病のリスク減少効果が明確に見られた。
この研究は、GRADE(グレード)評価という厳格な評価方法で行われており、科学的信頼性が高いと言えるものです。
参考:Dietary Magnesium Intake in Relation to Depression in Adults: A GRADE-Assessed Systematic Review and Dose–Response Meta-analysis of Epidemiologic Studies|Oxford Academic
マグネシウムサプリでうつ症状に2週間で効果アリ
2017年、米国バーモント大学の研究チームが医学誌「PLOS One」に発表した臨床試験では、マグネシウムのうつ症状に対する即効性が実証されました。
軽度〜中等度のうつ病患者126名(平均年齢52歳、男性38%)。
塩化マグネシウムのサプリメント(1日あたり248mg)を6週間、患者に投与して効果を測定。
・2週間以内に効果が現れた。
・マグネシウムを服用していた期間の方が、うつ症状が有意に軽減。
・副作用はほとんど見られなかった。
これらの研究結果は、マグネシウムがうつに有効であることを示していると言えるでしょう。
マグネシウムの1日の推奨量とうつ予防に効果的な量

厚生労働省の報告によると、現代人の多くがマグネシウム不足の傾向にあります。
主な原因は精製された穀物や加工食品の摂取増加、土壌のミネラル枯渇、慢性的なストレス、飲料水からの摂取減少などさまざまです。
まず、マグネシウムの推奨量と実際の摂取量を比較してみましょう。
30代男女のマグネシウムの推奨量(1日あたり)は、以下の通りです。
・男性30代:約380mg
・女性30代:約290mg
それに対して実際の平均摂取量(1日あたり)は、以下となっています。
・30代男性:約241mg/日
・30代女性:約197mg/日
これは推奨量と比べると、男性で約139mg(37%)、女性で約93mg(32%)のマグネシウムが日々不足している計算になります。
参考:日本人の食事摂取基準(2025年版)|厚生労働省
参考:令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
では、うつ病を予防するのに必要なマグネシウムの摂取量がいくらになるのか。
前述のOxford Academicの研究では、「1日あたり170〜370mgの摂取がうつ病リスクを低減する」とありました。
つまり、厚生労働省が推奨するマグネシウムの摂取量を満たしていれば、うつ予防にも十分な量と考えられます。
自分にマグネシウムが足りているのか、不足しているのか確認したい方は、マグネシウム不足をセルフチェックできるサイトを以下に用意していますので、ぜひこちらをご利用ください。
14問の質問に答えていくだけなので、わずか1分ほどで確認できますよ。

うつ予防に必要なマグネシウムの摂取方法3選

ここでは、今日からでもスタートできるマグネシウムの摂取方法を3つご紹介します。
- マグネシウムを多く含む食品を摂る
- サプリメントを活用する
- 経皮吸収(バーム・クリーム)で補う
それぞれ順番に見ていきましょう。
マグネシウムを多く含む食品を摂る
最適かつ理想的なマグネシウムの摂取方法は、マグネシウムを多く含む食品やバランスのとれた食事を摂ることです。
あおさやひじきなどの海藻類、アーモンドやカシューナッツ、きなこや豆腐などの豆類にマグネシウムは多く含まれています。
もっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧になってください。
サプリメントを活用する
仕事や家事、育児で毎日目まぐるしく動き回っている人にとって、「マグネシウムを取り入れたバランスのいい食事なんて毎日作ってられない」と思われる方も多いでしょう。
実際、マグネシウムのことを考えながら毎回の献立を考えるのは、至難の技です。
そこで、サプリメントを活用してマグネシウムを補助的に摂取してみることをおすすめします。
ただし、サプリメントの種類によっては、栄養素を閉じこめたり固めたりするために添加物が入ったものもあるので、商品選びの際にはご注意ください。
また、サプリメントからのマグネシウム摂取量が多すぎると、下痢・吐き気・腹部痙攣(けいれん)を引き起こすケースもあるので、マグネシウムの過剰摂取は控えるようにしましょう。
経皮吸収(バーム・クリーム)で補う
マグネシウムは、皮膚から吸収できることがわかっています。
これを「経皮吸収」と呼び、身近な例でいうと以下のような方法があります。
- マグネシウムバーム、クリームを肌に塗る
- マグネシウムオイル、スプレーを肌に塗布する
- エプソムソルト入浴を行う
経皮吸収には、胃腸を通さないため消化器系への負担がない、下痢などの副作用が起こりにくい、局所的に高濃度のマグネシウムを届けられるというメリットがあります。
また、食事やサプリメントと組み合わせることで、より効果的にマグネシウムを補給できるでしょう。
マグネシウム以外のうつ予防に役立つ5つの栄養素

マグネシウムだけでなく、他の栄養素もうつ予防に重要な役割を果たします。
バランスの良い食事を心がけ、以下の栄養素も意識的に摂取しましょう。
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、脳の炎症を抑え、神経伝達をスムーズにします。
複数の研究で抗うつ効果が実証されており、うつ予防に最も効果的な栄養素の1つです。
含まれる食品は、青魚(サバ、イワシ、サンマ)、クルミ、亜麻仁油などです。
ビタミンD
ビタミンDは、セロトニンの分泌を促進し、精神の安定に作用します。
日光を浴びることで体内で合成されますが、冬季や室内にいることが多い方は不足しがちです。
含まれる食品は、サケ、サバ、イワシ、卵黄、きのこ類など。
ビタミンDとマグネシウムを一緒に摂取することで、相乗効果が期待できます。
詳しくは以下の記事にまとめていますので、ご覧ください。
亜鉛
亜鉛は神経伝達物質の合成に関わり、うつ病の予防に効果が期待できます。
うつ病患者では亜鉛が不足していることが多く、補充によって症状が改善することが報告されています。
含まれる食品は、牡蠣、レバー、牛肉、卵、ナッツ類などです。
鉄分
鉄分が不足すると、疲労感や気分の落ち込みが起こりやすくなります。
含まれる食品は、レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじきなどです。
特に女性は月経によって鉄分が不足しやすいため、意識的に摂取すると良いでしょう。
女性の疲れとマグネシウム・鉄分の関係について詳しくは、以下をご覧ください。¥
ビタミンB群
ビタミンB群(特にB6、B12、葉酸)は、セロトニンやドーパミンの合成に必要です。
含まれる食品は、レバー、魚、卵、納豆、玄米などです。
これらの栄養素をバランス良く摂取することで、うつ病の予防効果が高まるでしょう。
マグネシウムとうつ予防に関するよくある質問

ここでは、マグネシウムとうつに関するよくある質問について回答していきます。
Q1:マグネシウムはうつの「治療」にも役立つの?
はい、治療の補助として有用だと考えられます。
ただし、マグネシウムはあくまで「補助的な」役割です。
軽度のうつ症状では改善が見られるケースもありますが、中等度以上のうつ病では医師の治療が不可欠です。
医師と相談しながら取り入れると良いでしょう。
Q2:サプリメントでマグネシウムを摂るのは効果がありますか?
個人差はありますが、食事で十分に摂れない場合、マグネシウムサプリを利用するのも有効です。
ただし、摂りすぎると下痢を起こすことがあるため、上限(成人で1日350mg程度)を超えないよう注意してください。
Q3:ストレスを感じるとマグネシウムが減るって本当?
はい、本当です。
ストレスがかかると「コルチゾール」というホルモンが分泌され、その過程でマグネシウムが大量に消費されます。
つまり、ストレスが多い生活ほどマグネシウム不足に陥りやすく、心の不調を招きやすくなります。
毎日の食事からの補給やリラックスする習慣を取り入れることが大切です。
まとめ|マグネシウムの摂取でうつ予防につなげよう!
マグネシウムは、心と体のバランスを保つために欠かせないミネラルです。
ストレスや慢性的な疲労、バランスの偏った食事などによって不足すると、心の不調や気分の落ち込みにつながることがあります。
今回紹介したマグネシウムの3つの摂取方法で上手に補い、心と体を整えることが、うつの予防にもつながるでしょう。
ぜひ今日から少しずつでもいいので、あなたの生活に心を守るミネラル「マグネシウム」を取り入れてみてください!

