40代後半から50代にかけて、多くの女性が経験する「更年期」。
更年期は、ホルモンバランスの急激な変化により、心身にさまざまな不調が現れます。
イライラしたり、不安感が強くなったり。不眠や体のほてり、動悸などの症状に悩む人も少なくありません。
こうした更年期障害の症状を緩和するためには、生活習慣の見直しや適切な栄養摂取が大切です。
中でも近年注目されているのが「マグネシウム」です。
ミネラルの一種であるマグネシウムには、ホルモンバランスや自律神経の調整、骨の健康など、更年期障害に悩まされている女性に必要な機能があることがわかってきました。
今回は、更年期障害のサポートミネラルとして、マグネシウムが果たす5つの役割について解説します。
更年期障害を緩和!マグネシウムの5つの役割

日本女性医学学会は、更年期障害の代表的な症状として、イライラ感・不安感・不眠などの精神症状をあげています。
これらの症状は、ホルモンバランスや自律神経の乱れが関係しているケースが多く、特に女性ホルモンである「エストロゲン」の減少が主な原因であることがわかっています。
そこで注目されているのが、ホルモンバランスや自律神経の調整をサポートする「マグネシウム」です。
医療分野の優れた教育機関であるカシャーン大学の学生研究委員会が、2023年に実施した研究では、マグネシウムを摂取することで、うつ病や気分障害の症状を緩和できることが明らかになりました。
まずは、更年期障害のケアにおいて、マグネシウムに期待できる5つの役割をわかりやすく解説します。
参考:Magnesium for Sleep During Menopause: What You Need to Know│Midi
参考:Magnesium supplementation beneficially affects depression in adults with depressive disorder: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials│National Library of Medicine
参考:更年期対策レシピvol.5 マグネシウム不足がなぜ更年期うつを誘発するの?【豆苗と桜海老の中華風雑炊】│TRULY
1. 自律神経のバランスを整える
更年期の不調には、卵巣機能の低下による女性ホルモン「エストロゲン」の減少が大きく関わっています。
更年期を迎えると、エストロゲンの分泌量が増減を繰り返し、不安定な状態のまま徐々に低下していくことで、自律神経のバランスを崩しやすくなります。
結果として、動悸・ほてり・発汗・気分の不安定さなど、うつ症状のような状態を引き起こしやすくなるのです。
神経の興奮を抑える作用があるマグネシウムは、自律神経のバランス維持に欠かせないミネラルです。
神経伝達の正常な機能をサポートするほか、ストレスに対する反応を緩和し、自律神経のバランスを保つのに重要な役割を果たします。
参考:【医師監修】自律神経の乱れによる更年期症状とは│命の母

2. 睡眠の質をサポートする
不眠は、更年期女性の半数程度が経験するといわれています。
更年期障害の代表的な症状であるのぼせや発汗、動悸といった身体症状が、睡眠の妨げとなるためです。
また、加齢とともに睡眠が浅くなりやすく、疲労が取れにくくなるのも一因と考えられます。
46名の高齢被験者を対象にした、二重盲検ランダム試験では、毎日500mgのマグネシウムを8週間摂取した被験者群が、プラセボ群に比べて入眠がスムーズになり、睡眠時間も伸びるという結果が報告されています。
医療分野・健康や美容に関する民間企業ともに、マグネシウムが睡眠に与える効果への期待が高まっています。
参考:女性の睡眠障害│女性内科専用外来 多美クリニック
参考:睡眠の質を上げるマグネシウムの効果と効果を高めるコツ│ねむりの応援団
3. 骨の健康を守る
閉経後の女性にとって、「骨粗しょう症」は最大の健康課題の一つです。
更年期に伴うエストロゲンの減少は、骨を形成する骨芽細胞の働きを低下させるだけでなく、骨を破壊する破骨細胞の活性化を促進します。
その結果、骨密度が急激に低下し、骨折リスクが高まるのです。
ところが、マグネシウムには骨芽細胞を活性化させ、骨の主要な構成成分であるカルシウムの代謝をサポートし調節する働きがあります。
2016年に発表されたメタアナリシス(Dietary magnesium intake, bone mineral density and risk of fracture)では、マグネシウムの摂取量が多い人ほど、骨折リスクが低いことが明らかにされました。
骨粗しょう症を予防し、骨の健康を維持するためには、マグネシウムの摂取が欠かせないという考え方が、現代のスタンダードになりつつあります。
参考:女性ホルモンの減少が引き起こす「更年期障害」と「骨粗しょう症」の深い関係│三国ゆう整形外科
参考:Dietary magnesium intake, bone mineral density and risk of fracture: a systematic review and meta-analysis│National Library of Medicine
4. 血圧を安定させる
厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査(2016年)」によると、女性の高血圧の有病率は40歳から急増し、50歳代では43.0%に達しています。
これは、更年期のホルモン変動が、血管の柔軟性や心血管機能に影響を及ぼすためと考えられています。
もちろん、栄養が偏りがちな現代の食習慣や、仕事や人間関係におけるストレス、多忙による不眠や生活習慣の乱れなど、現代的な事情や背景も関係しているでしょう。
いずれにせよ、血圧や心血管の健康は、現代人にとって大きな課題の一つです。
マグネシウムには、血管を拡張させる働きがあります。血管の収縮を抑えることで、血圧の上昇を防ぐのです。
そのため、マグネシウムは「天然のカルシウム拮抗薬」とも呼ばれており、高血圧予防に役立つ栄養素として評価されています。
参考:平成28年国民健康・栄養調査報告│厚生労働省
参考:血圧が気になる方の新常識!?マグネシウムを食事にとり入れよう│dヘルスケア
5. 気分を安定させる
更年期を迎えてエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンの分泌量が減少すると、気分の落ち込みや不安、うつ症状といったメンタル的な症状が現れやすくなります。
これは、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れるのが原因です。
マグネシウムには、心を落ち着かせる神経伝達物質「GABA(γ-アミノ酪酸)」の働きをサポートする作用があります。
また、幸福ホルモンとも呼ばれているセロトニンの合成を促し、情緒不安定の緩和にも役立ちます。
「天然の精神安定剤」といわれるように、マグネシウムには気分を安定させる働きがあるのです。
もちろん更年期だけでなくあらゆる世代の人にとって、マグネシウムには「気分の安定化」といったメリットが期待できます。
参考:更年期の感情的側面に対処する│TENA
参考:マグネシウム不足の症状と原因|セルフチェックや改善策│東京原宿クリニック
【更年期向け】マグネシウム摂取のポイント

一般的に、更年期には食事量が減少する傾向があるため、マグネシウムを効率的に摂取するには、多少の工夫が必要です。
おすすめの方法は、和食を中心とした食生活を取り入れることです。
特に納豆や豆腐といった大豆製品には、マグネシウムが豊富に含まれています。
また、大豆にはマグネシウムのほか、大豆イソフラボンという植物性エストロゲンが含まれており、更年期症状の緩和をサポートします。
他には、サプリメントや入浴剤(エプソムソルト)を活用するのもいいでしょう。
これらは、マグネシウムをお手軽かつ効率的に摂取する一般的な方法として、欧米では古くから知られています。
参考:食生活でケア│更年期ラボ

更年期に重要な3つのミネラル

厚生労働省では、13種類のミネラルの摂取基準を定めていますが、更年期の女性にとって特に注目したいのが、マグネシウム、カルシウム、亜鉛の3つです。
これら3つのミネラルの役割や特徴について解説します。
マグネシウム
マグネシウムは、エネルギー代謝、神経伝達、ホルモン調整などに関与する重要なミネラルで、私たちの体のさまざまな場所に存在しています。
マグネシウムが不足すると骨の形成に影響が出るほか、不整脈や虚血性心疾患、高血圧、筋肉のけいれんを引き起こす可能性が高まります。
また、心身のパフォーマンスが低下する可能性があるだけでなく、神経過敏や抑うつ感などが生じることも。
特に更年期には、積極的に摂取したいミネラルの一つで、身体機能のほか心の安定を保つためにも欠かせない栄養素です。

カルシウム
カルシウムは体の中にもっとも多く存在するミネラルで、骨の形成だけでなく、神経の興奮抑制、筋肉の収縮にも関わっています。
特に更年期以降の骨密度低下を防ぐためには欠かせない栄養素です。
カルシウムが不足すると骨や歯が弱くなるのはよく知られていますが、実は血圧を調整するのに欠かせないミネラルでもあります。

この10年で、「カルシウムはできるだけ食事から摂るのが理想的」という考え方が広まりつつあります。その理由は、サプリメントで摂ったカルシウムが、本来たまるべきではない動脈に沈着する場合があるからです。特に日本人に多いビタミンD不足の状態では、そのリスクがさらに高まることが懸念されます。
ビタミンDが足りないと、体内でカルシウムがうまく利用されず、動脈の石灰化を引き起こすだけでなく、マグネシウムの不足にもつながります。とはいえ、食事から摂取したカルシウムでは、こうした問題はほとんど起こりません。ですから、カルシウムはできるだけ食事から摂りたいところです。
カルシウムが豊富な食品には、乳製品、サーモンやイワシなどの魚、ケール、ブロッコリー、豆腐などがあります。なお、ビタミンDを体内で活性化させるには、マグネシウムの存在も欠かせません。

亜鉛
亜鉛は、細胞分裂や免疫機能の維持に関わる重要なミネラルで、味覚障害や肌荒れ、免疫力の低下が気になる更年期女性にとって、意識的に摂取するようにしたい栄養素の一つです。
まとめ|マグネシウムで快適な更年期を過ごそう
更年期の女性にとって、マグネシウム、カルシウム、亜鉛は健康維持に欠かせない栄養素です。
ただし、どれか一つだけを大量に摂るのではなく、バランスよく取り入れることが大切です。
特にカルシウムと亜鉛は、通常の食事における過剰摂取のリスクは低いですが、サプリメントで摂取する場合には摂取量に注意が必要です。
また、マグネシウムは現代人に不足しがちなミネラルの一つですが、食事で十分に摂取するのが比較的難しい栄養素でもあります。
サプリメントや入浴剤などを活用し、更年期の諸症状に備えましょう。