歯磨き粉を選ぶ基準は人それぞれ異なります。
「爽快感がある」、「ホワイトニング効果が期待できる」、「虫歯対策に優れている」など、市販されている歯磨き粉には多様なタイプがあります。
その中でも、マグネシウム入りの歯磨き粉が注目を集めています。
今回はマグネシウム歯磨き粉のメリットやデメリット、一般的な歯磨き粉との違い、マグネシウムが口内から経皮吸収されるのかどうかについて、詳しく解説します。
記事を読み終えた後は、歯磨き粉の成分表示が気になり、あなたの歯磨き粉選びの基準が変わるかもしれません。
ぜひ最後までご覧ください。
マグネシウム歯磨き粉に期待できる3つの効果・メリット

マグネシウムは体内の約800以上の化学反応に補酵素として働き、私たちの生命維持に必須ともいうべきミネラルです。
ここではマグネシウム歯磨き粉に期待できる具体的な効果・メリットを3つ紹介します。
- 歯の表面を健やかに保つ
- 口内環境を整え、口臭を防ぐ
- 口腔粘膜の健康をサポートする
それぞれ順番に見ていきましょう。
歯の表面を健やかに保つ
マグネシウムには歯の表面を健やかに保ち、再石灰化をサポートする働きが期待されています。
歯の再石灰化とは、酸などにより一部溶け出した歯の表面を、唾液中のミネラルによって修復し、健康な状態に戻す自然なプロセスのことです。
「マグネシウム含有ハイドロキシアパタイト」を使った実験では、マグネシウム入りのハイドロキシアパタイトを使用した場合、通常のハイドロキシアパタイトよりもエナメル質の表面硬度が高くなり、歯の健康維持に貢献することがわかりました。
“According to the results of the present research work, MgHA shows 12% higher remineralization ability compared to that of HA and can be effectively used as remineralization agents in dental hygiene products such as toothpaste, mouthwashes, and oral health compounds.”
「本研究の結果から、マグネシウム含有ハイドロキシアパタイト(Mg‑HA)はハイドロキシアパタイト(HA)に比べて約12%高い再石灰化能力を示し、歯磨き粉やマウスウォッシュ、その他の口腔ケア製品において、再石灰化剤として有効に活用できることが示されました」
引用:Synthesis and Characterization of Magnesium Hydroxyapatite Nanopowders for Enamel Remineralization of Initial Caries Lesions|The Journal of Advanced Materials and Technologies (JAMT)
このことから、マグネシウムは歯の健康維持をサポートすると考えられます。
口内環境を整え、口臭を防ぐ
マグネシウムは歯の健康維持に関わる成分としても知られており、口内環境を整え、清潔に保つことで気になるニオイのケアをするとされています。
以下の研究では、マグネシウムが口腔内を清潔に保ち、細菌の繁殖を抑える働きがあることが報告されています。
“The oral cavity hosts a diverse microbiome, including beneficial and harmful bacteria. Magnesium contributes to a balanced oral microbiome by supporting immune function and reducing inflammation. This balance helps prevent bacterial overgrowth, which can lead to plaque buildup, cavities, and gum disease.”
「口の中には、善玉菌と悪玉菌の両方を含むさまざまな細菌(マイクロバイオーム)が存在しています。マグネシウムは、免疫機能のサポートや炎症の軽減を通じて、口腔内のバランスを整えることに役立ちます。このバランスが保たれることで、プラークの蓄積やむし歯、歯周病の原因となる細菌の増殖を防ぐことができます」
引用:Magnesium: Impacts on Body and Oral Health|Denpedia
また、同記事内では、マグネシウムが不足すると、唾液の分泌量が減り、ドライマウス(口の乾き)や口臭といった口内環境の乱れにつながる可能性があると伝えています。
口腔粘膜の健康をサポートする
マグネシウムは細胞の代謝に関与する働きが知られており、その点から口腔の健康維持に重要だと考えられています。
以下の記事では、口内炎のできたネズミにマグネシウムとクルクミン(ターメリックに入っている黄色い成分)が入った「マイクロニードルパッチ(微細な針のついた絆創膏のようなもの)」を口内炎に貼り付けたところ、はれや痛みを鎮めたり、症状の改善が観察されたと報告されています。
“Verification using an oral ulcer rat model showed that the microneedles patch exhibited excellent therapeutic effects.”
「ラットを用いた口内炎モデルでの検証において、このマイクロニードルパッチは優れた治療効果を示しました」
引用:Magnesium metal–organic framework microneedles loaded with curcumin for accelerating oral ulcer healing|Journal of Nanobiotechnology
※この実験はあくまでも動物モデルにおいての結果であり、すべての人に当てはまるわけではありません。
マグネシウム歯磨き粉の3つのデメリット

効果やメリットの一方で、マグネシウム歯磨き粉には以下のようなデメリットもあります。
- フッ素のような明確な虫歯予防効果は薄い
- 市販品よりやや高価な傾向にある
- 味や泡立ちに物足りなさを感じる人もいる
フッ素のような明確な虫歯予防効果は薄い
フッ素は歯を強くするための天然のミネラル(鉱物)です。
マグネシウムに歯のエナメル質を強化する作用はありますが、フッ素ほど直接的な虫歯予防の効果は期待できません。
フッ素には歯の再石灰化を促進したり、歯の表面のエナメル質を強固にしたりと明らかな作用が期待できますが、マグネシウムはあくまで補助的な役割として働きます。
そのため、虫歯予防を第一に考える方にとっては、マグネシウム歯磨き粉だけでは十分な満足感を得られないかもしれません。

Reasons to End Water Fluoridation A Science-Based Assessment
私は個人的に、フッ素の使用について慎重な立場をとっています。
カナダで臨床に携わっていた際、フッ素の安全性や有効性について様々な議論が交わされていましたが、虫歯予防には、フッ素使用の話以前に、砂糖などの糖質を控えることが非常に効果的だと考えています。
一部の研究者の中には、フッ素が内分泌や神経に影響を及ぼす可能性を指摘する意見もあり、たとえばポール・コネット博士のように、水道水のフッ素添加に反対している専門家もいます。
ご興味のある方は、以下の資料に目を通されるとよいかもしれません。
https://fluoridealert.org/wp-content/uploads/2025/07/Reasons-to-End-Water-Fluoridation.pdf
なお、フッ素に関する議論は非常に多角的です。
適量の使用や使用方法であれば有益とされる一方で、高濃度の場合は有害な影響を及ぼす可能性もあります。
どのような成分を使うかは、各自が信頼できる情報をもとに、納得のいく選択をすることが大切だと考えています。
市販品よりやや高価な傾向にある
マグネシウム配合の歯磨き粉は一般的な市販品と比べると、価格が高めの傾向があります。
その理由は天然成分や無添加処方にこだわった製品が多いためです。
市販されているマグネシウム歯磨き粉を見てみると、1本(約120g)、約1,500円〜3,000円と高めの値段設定になっています。
それゆえ、「歯磨き粉にそこまでの値段はかけたくない…」と考える方には不向きと言えるでしょう。
味や泡立ちに物足りなさを感じる人もいる
マグネシウム歯磨き粉には合成香料などは入っていない低刺激処方の製品や、「ラウリル硫酸ナトリウム=発泡剤」が含まれていないものが多いため、泡立ちが少なく、磨いた後のスッキリ感があまり得られないといった特徴があります。
そのため、人によっては歯磨き後に物足りなさを感じる方もいるでしょう。
マグネシウム歯磨き粉と普通の歯磨き粉の違いとは?

マグネシウム歯磨き粉と一般的な歯磨き粉の違いをまとめたものが、以下の一覧です。
項目 | マグネシウム歯磨き粉 | 普通の歯磨き粉(フッ素系) |
主成分 | 酸化マグネシウム・塩化マグネシウムなどのマグネシウム化合物、天然成分 | フッ化ナトリウム、研磨剤、合成香料 |
目的 | 再石灰化サポート、抗菌、ナチュラルケア…など | 虫歯予防、歯周病予防、爽快感…など |
香料 | 天然エッセンシャルオイル配合が多い | 人工ミント・合成香料が多い |
界面活性剤 | 不使用 or 植物由来のものを使用 | ラウリル硫酸Naの使用が一般的 |
マグネシウム歯磨き粉と普通の歯磨き粉の大きな違いは、主成分と目的にあります。
マグネシウム歯磨き粉は、再石灰化や抗炎症、口腔粘膜の健康維持といった「予防的・健康維持的側面」に重点を置いているのに対し、市販の歯磨き粉は、主にフッ素や研磨剤、発泡剤、合成香料などを含み、虫歯予防や洗浄力、爽快感を重視しているのが特徴です。
どちらが良い悪いではなく、自分の目的や使用感などに合わせて使い分けると良いでしょう。
市販の歯磨き粉に含まれるマグネシウム成分の例

日本のドラッグストアなどで一般に流通する製品には、マグネシウム歯磨き粉は少ない傾向です。
マグネシウムを機能成分として明示している製品は、自然派・オーガニック系や海外ブランドに多いと言えます。
実際にマグネシウム歯磨き粉にはどのような成分が含まれているのか、代表的な成分例を下表で確認してみましょう。
表示成分名 | 主な目的 |
---|---|
酸化マグネシウム | 研磨剤、pH調整、抗菌作用 |
塩化マグネシウム | ミネラル補給・再石灰化をサポート |
水酸化マグネシウム | 緩衝作用(酸中和)・虫歯予防をサポート |
Mg-HA (マグネシウム含有ハイドロキシアパタイト) | 再石灰化・エナメル質の健やかさを保つ |
今後、歯磨き粉を手に取る際には、パッケージの成分表示をよく確認してみてください。
マグネシウムが入っているかどうか、ご自身で判断できますよ。
また、マグネシウムには他にもさまざまな種類があるので、以下の解説記事もあわせてご覧ください。

マグネシウム歯磨き粉は口内から吸収されるのか?

「マグネシウム歯磨き粉で歯を磨くと、口内から体内にマグネシウムは吸収されるのか?」
そのような疑問をお持ちになる方もいらっしゃるでしょう。
結論からお伝えすると、その可能性は極めてゼロに近いと推測されます。
粘膜は皮膚よりも吸収率が高いとされますが、これまでのところ、「歯磨き粉によるマグネシウム吸収が血中濃度に影響する」とする科学的な証明や検証、データはありません。
あくまでもマグネシウム歯磨き粉は口腔内の健康維持を目的として使用するのが望ましく、マグネシウム補給を目的にしても期待するような効果は得られないでしょう。
ただし、口内ではなく体の他部位からマグネシウムが経皮吸収されることは実証されているので、詳しく知りたい方は、以下の記事をご参考にしてください。

マグネシウム歯磨き粉よりも効率的にマグネシウムを吸収するには?

では、マグネシウムを体内に効率よく取り入れるにはどうすればいいのか?
代表的な2つの方法を以下に紹介します。
- 食事やサプリメントでの経口摂取
- バームやクリームでの経皮吸収(肌からの吸収)
食事やサプリメントでの経口摂取
最も自然なマグネシウムの摂取方法は食事からの摂取です。
しかし、毎日のバランスのいい食事でマグネシウムを摂取しようとしても、環境的にも時間的にもなかなか難しいという人も多いでしょう。

そうした場合には、補助的にサプリメントでマグネシウムを摂取するのも一つの選択肢です。
さまざまなサプリメントがネットや市場に出回っていますが、選ぶ際は吸収率の高い、安心・安全なサプリメントを選ぶことが重要になります。
以下の記事では日本製と海外製のサプリメントの違いや危険性について解説しているので、こちらもあわせてご覧ください。

バームやクリームでの経皮吸収(肌からの吸収)
マグネシウムはバームやクリーム、スプレーを使用して、経皮吸収することも可能です。
経口摂取にない経皮吸収の特徴としては、以下の点が挙げられます。
- 胃腸への負担がない
- 吸収速度が緩やかで安定している
- 気になる箇所に直接塗布できる
- サプリメント(錠剤)を飲むのが苦手な人でも使いやすい
- いつでもどこでも利用でき、摂取量が調整しやすい
より積極的にマグネシウムを摂取したい方には、先ほど紹介した経口摂取とあわせて、経皮吸収タイプの製品を併用してもよいでしょう。
具体的な使い方は、以下の解説記事をご覧ください。

まとめ:マグネシウム歯磨き粉は経皮吸収の科学的根拠は乏しいが、歯の健康を保つ

マグネシウム歯磨き粉には、歯の再石灰化のサポートや口腔環境の改善といった効果・メリットが考えられます。
しかし、その一方で、口内からの吸収によってマグネシウムを補給するという点に関しては、現時点では科学的根拠が不十分だと言えるでしょう。
したがって、マグネシウム摂取を目的とするのであれば、マグネシウム歯磨き粉を使った歯磨きを一つの習慣としつつ、食事やサプリメント、経皮吸収での効率的なマグネシウム摂取もぜひ視野に入れてみてください。